安さだけじゃダメ!? 利便性追求が小売の未来を分ける:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
ある家電量販店のオンラインショップを利用して、その使いにくさからアマゾンのサービスとの差を感じたという筆者。消費者の便利さを追求する姿勢の有無が、その結果につながっているのではないかと主張する。
便利さは競争力
ネット上のこうした情報のやり取りは、情報が漏れる懸念があるということを置いておけば、消費者にとっても便利なことだ。そして便利さはそれ自体が競争力なのだと思う。
今、当たり前に利用している宅配便。しかし宅配というビジネスはコストばかりかかってとても引き合わないというのが二昔前の運輸業界の常識だった。宅配便で先鞭をつけたヤマト運輸は、当初は三越のお歳暮やお中元を宅配していた。しかし、三越が納入業者に無理難題を押しつけるのに嫌気がさして、自前で宅配に乗り出したのである。
これも当初はどうやって荷物を集めるのか、どうやって一軒一軒に配るのか、さまざまな苦労があった。当時、荷物を送るのに利用するのは郵便局。そして郵便局は「お役所」だったから、重さ、寸法、縄のかけ方にいたるまで細かい規則があった。
結局、ヤマトはこのお役所との喧嘩に勝つために、消費者にとっての便利さを追求したのである。ゴルフクラブやスキー用具を送ることもできるし、東京から大阪に翌日の午前中に届くようにメール便を出すこともできる。これは郵便局にはなかなか難しい芸当だ。
「お客にとって便利なサービスをできるだけ安く提供する」というのが流通やサービス業の基本だと思う。その意味では家電量販店という業態もまさにイノベーションが生み出したものだ。しかし、「いかに安く仕入れていかに安く売るか」だけでは競争にもしょせん限界がある。牛丼戦争のようになっては経営者としても先が読めない。そうするともっと違うところでイノベーションを競うようになるはずだ。それがアマゾン、ユニクロ、イケア、コストコなどを生み出した(イケアなどは一度日本で失敗しているのに、再チャレンジしていまでは大賑わいだ)。
これから日本は高齢化社会が本格化する。そうなるとオンラインショップを利用する人も今まで以上に増えるだろう。交通費だの時間だのを考えれば、ネットで手軽に買えることは年寄りにとってありがたい。しかもこれからの年寄りは、インターネットになじみのある人も少なくない。ネットで安く買えるところを探して、いろいろなオンラインショップを試してみることだろう。
そして先ほど挙げた家電量販店のショップは残念ながら、落第である。よほどのことがない限り、また利用することはあるまい。その理由は、何よりも今の時代に必要な事業のイノベーションに対する心構えを感じることができないからである。
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