日本に不足しているもの、それは“情報共有のスタンス”:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
家電量販店のオンラインショップでの混乱と、原発事故対応に関して議事録が残されていなかった問題を目の当たりにした筆者。その根底には、情報共有に関する感度の低さがあると指摘する。
情報共有についての無関心さ
ここに重大な問題がある。国家が非常事態にある時、いちばん重要なことはかじ取りの任にある人たちの情報の共有だ。1人ですべての情報を知ることはできないし、1人ですべて判断できるわけでもない。情報を共有し、さまざまな角度からの意見を聞いて、ごく限られた時間の中で「最適解」を見つけなければならない(もちろん結果的に間違うことはありうるから、なぜそのような結論に至ったのかを説明することが必要である)。
菅首相が吉田所長と携帯で話したと仮定して、その情報をいったい誰と共有したのだろうか。あるいは官邸にいた関係者にその内容を伝えようとしたのだろうか。もしそれをしなかったとしたら、国家のガバナンスの最高責任者である首相として完全に失格なのである。
なぜなら、自分が集めた情報だけを信用するようなことを言えば、情報が集まらなくなり、そして「首相、それは間違っています」と進言する部下もいなくなってしまう。
実際、3月15日早朝、菅首相が東電本店に乗り込み、東電幹部を怒鳴りつけた。その理由は、東電が福島第一原発から「全員撤退する」と言っていると聞いたからである。この「全員撤退」は誤った情報だった。原発を何とか守る人数を除いて、とりあえず無用の被ばくを避けるために一部作業員を福島第二原発まで避難させようという話だった。
そして、東電本店で幹部を相手に一方的に怒鳴る菅首相に対して、誰も「それは違います」と言えなかった(不思議なことに、この日の早朝会議はテレビ会議で本店や福島第一原発、オフサイトセンターなどと結ばれていたが、最初の10分間は音声が記録されていないのだという。それがなぜなのか、故意に消したのか、それともシステムの不調だったのかは分からない)。
携帯電話の話を聞いた時、議事録を残さなかったのも理解できると思った。要するに、菅首相(だけではないかもしれないが)は、情報を共有するということに対して、あまりにも無関心だったのである。もちろん後世の人々と情報を共有する(それが記録だ)ことなど考えていなかったに違いない。「歴史が(自分の正しさを)判断する」という主旨のことを菅首相はよく口にしたが、記録がなければ歴史は判断しようがないということを考えなかったのだろうか。
日本の情報感度は周回遅れ
この事故調第6回委員会の取材は、携帯電話の話だけでも収穫があったと思うが、もう1つ気になったのが、事故調の会議録である。この事故調はFacebookなどのソーシャルネットワークを使ったり、このような委員会を公開で開いたり、ネット中継をしたりと、「情報」には気を使っている。
ところが、会議録を見て驚いた。一部は、縦書きの文書をスキャンした画像だったのである。何のための記録なのか、そこに書かれている文字が検索できないことを承知の上での会議録なのだろうか。しかも縦書きのいかにもお役所文書の形式ということは、その形式でやらなければならないというように事務局が考えたということだろう。
なぜICTなどと言っている時代に、昔ながらのお役所書類の形式を守ろうとするのかが理解できない。縦書きなどにすれば、いろいろな意味で処理しにくい。つまりは利用も限られるということだ。黒川清氏という日本が誇る有識者が委員長をしている委員会のこの有様を見て、日本の情報感度が周回遅れであることを再確認した。
くだんのオンラインショップも、国会事故調の会議録も根っこは同じだと思う。どうやって情報を迅速に伝え、どうやって共有していくかの「基本的なスタンス」ができていないのだと思う。そこに気づくのに後どれぐらいかかるのだろうか。
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