「ジョブズになれると思うな!」――成毛眞が語る、きっと変革者になれない人の人生論:New Order ポスト・ジョブズ時代の新ルール(3/3 ページ)
「次のスタンダードを作るのは、あなたでもなければ、あなたの周りにいる誰かでもない」。ジョブズやビル・ゲイツなどを間近で見続けてきた成毛眞氏はそう断言。それよりも時代を作る人を見つけて、早く近くに行くべきだ、と主張する。
40歳過ぎてソフトウエアエンジニアはムリ。だから今を楽しめ
――エンジニアの仕事や働き方は、今後変わっていくのでしょうか。また、これからの時代、エンジニアに求められるものは何でしょうか?
エンジニアの仕事は、これからも基本的に変わらないと思います。メインフレーム用か、PC用か、スマホ用かはともかく、プログラムを書くという点では20年前から同じです。
若いうちは現場で一生懸命働いて、40代には、もうほとんどがマネジメントに就いている。40歳を過ぎて、コードを書ける書けないにかかわらず、実際に自分でコードを書いている人はほとんどいないでしょう。
ソフトウエアエンジニアの場合、開発環境が目まぐるしく変化していきます。大昔は機械語で書いていたものがCに替わり、C++となって、Objective-Cが出てきた。仕事の前提がこれだけガラリと変わってしまう仕事は、ほかに類を見ません。
一度運転技術を覚えれば、ずっと運転手をやっていけるし、最先端に位置するように見える金融のトレーダーにしても、投資のルール自体が変わるわけではありません。同じエンジニアでもハードウエアの場合は、効率化したり集積化したりしていくことはあっても、基本技術は昔からの積み上げです。
ところがソフトウエアだと、Windowsでやっていたものが気が付けばiOSになっていたとか、ようやく覚えたと思ったら、さあ次はAndroidだと言われたりする。ハードが変わればそれに対応して、イチから勉強していかなくてはいけないし、しかも変化のスピードはますます速くなっています。
ソフトウエアエンジニアは、変化に食らいついていくしかありません。でも逆に言えば、それこそが面白さだと思うんです。常に最先端のことを追いかけて、それが楽しいから、この仕事をやっているのではないのか、と。
例えば力士だって、ずっと現役でいられるわけではないし、引退後に親方になってずっと相撲に携わっていられるのも一握りに過ぎません。まあ、ちゃんこ屋になるのが関の山ですよね。でも自分の好きな世界に入って、必死になって挑戦して、やりたいことを精一杯やってきたのだから、みんなきっと「幸せだ」と答えると思いますよ。
そういう世界にいるのだから、ソフトウエアエンジニアもちゃんこ屋になる前に、どんどん面白いことをした方が良い。若いうちから思い切りやりたいことをやるべきですよ。どうせ40歳前にはほとんどのエンジニアはコード書きから引退しないといけない身。今を楽しまずにいつ楽しむんですか。
若いなら英語圏へ行くのが分かりやすい現状打開策
ただ、勘違いしない方が良いのが、「次のスタンダードを作るのは、あなたではない」ということ。若いエンジニアに向かって、「頑張ればあなたにもできる! 希望を持ってまい進しなさい」なんて、僕は絶対に言いません。
世界を変えるようなイノベーションを作り出せる人は、1000万人とか1億人に1人に過ぎない。僕もこれまで多くのエンジニアを見てきましたが、スーパーエンジニアは別次元です。アウトプットも100倍くらいの開きが出てきます。
次のスタンダードは、あなたには作れない。あなたの友人も、あなたの勤めている会社の人も、恐らく無理でしょう。それくらい希有な存在だということです。
ならば、イノベーションを生み出せそうな人を探し出すこと。その会社に転職するなり、そこの仕事ができる職場を探すなりして、なるべくその近くに行くべきです。あなた自身には作り出せなくても、少なくとも時代を切り開く仕事に携われるのですから。
そういう意味では、海外に出て行くのも良い。特に若い人に対しては、早く米国に行きなさいと言いたいですね。別に米国が優れているからでも、日本がダメだからいうわけではなく、単純に数の論理です。
日本語に比べて、英語圏のマーケットは10倍も大きい。日本語人口は1億3000万人。英語を母国語として使う人は5億人。第2言語を含めて10億人の人が英語ソフトを使います。
日本国内で1000人にしか買ってもらえないものも、英語圏なら1万人かもしれません。開発コストが同じなら、英語圏では10分の1の価格で販売できるし、逆に同じ価格なら10倍のコストをかけることができます。
どう考えても、日本の方が分が悪い。ドイツでも、フランスでも事情は同じです。ただ英語を話す人が多いというだけの理由で、英語圏は断然有利なんです。だから米国に行った方が、チャンスも多いだろうと推測できます。
もちろん、次のスタンダードを作る人を探し出すにしても、待っているだけでは見つからない。自分なりに努力が必要です。
例えば「TED」の講演をチェックしていますか? 基礎研究の動向を把握していますか? 優秀なエンジニアは、常にアンテナを張り巡らせているもの。TEDに登場する会社のHPをすべてブックマークして、定期的に見に行っている人がいたら、次のトレンドを知ろうとあなたのところに人が集まってきますよ。それだけでも、一歩チャンスに近づいているはずです。
「エンジニアtype」
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