ミサイル実験が明らかにした日本の危機管理の未熟さ:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
失敗に終わった、北朝鮮のミサイル発射実験。しかし、実験に備えて万全の準備をしていた日本政府だが、実際にはうまく稼働しなかった。なぜそんなことが起こってしまったのだろうか。
可能性を切り捨ててはいけない
もう1つ、気になることがある。今回、ダブルチェックできなかったために、「最初の情報が間違っていたのではないか」という情報評価になったと報道されていた。真実がどこにあるかは分からないが、情報を評価するときにどのような可能性を考えるかが極めて重要なのだと思う。「誤報」の可能性もあるし、打ち上げが失敗した結果、日本側が追いかけることができなかったということも考えられた。いくつかのケースが考えられるときには、その可能性を排除するような評価の仕方は厳に慎まなければならない。
いくつか可能性が考えられる時に、どの可能性が最も高いかと順序付けるのが「評価」ではあるが、小さな可能性を「そんなことはありえない」と切り捨ててはいけないということだ。科学者や技術者はとりわけそうでなければならない。防衛省における情報分析官も同じだと思う。
科学者が可能性を無視し出すと、おかしなことが起きる。例えば、原子力発電所において「全電源喪失などありえない」と言い、そして原発が事故を起こした後、「水素爆発はありえない」と当時の菅首相に助言したのは科学者だった。
もちろん実際にどういう対策を取るかという時には、すべての可能性に備えることは事実上不可能だから「選ぶ」という作業は必要になるだろう。よく分からない場合はできる範囲で「最悪のケースに備える」というのが原則である。その意味で、ミサイル発射という情報が、各自治体が最悪のケースに備えることもできないような形でしか伝わらなかったことを政府は率直に反省しなければならないだろう。
1分1秒を争うような緊迫した状況下で、果たして政府や自治体は、国民の生命、安全を守るだけの力を持っているのだろうか。2011年の東日本大震災や福島第一原発事故が、そこに大きな疑問符を突きつけた。そして北朝鮮がミサイル発射を強行した。結果的に失敗したとはいえ、残念ながら日本国民が政府に対して抱いていた淡い期待を打ち砕くことには成功したと言えるのかもしれない。
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