『コクリコ坂』が転機に!? 揺れるジブリのビジネスモデル:アニメビジネスの今(4/4 ページ)
『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』など、映画史に残る作品を数々送り出してきたスタジオジブリ。しかし今、その劇場オリジナルアニメ中心のビジネスモデルが揺らぎつつある。
アニメの現状とジブリ
ネット社会となった現在、日本のアニメは国内のみならず海外でも多くのファンを得ている。各国で開催されるアニメ関連のイベントで相当な動員力を持つほどになっているのを見ても分かるが、問題はその人気をマネタイズできていない点にある。
日本のアニメビジネスの主流はテレビアニメ。テレビという媒体で無料放送することで、キッズファミリー向け作品はキャラクター商品で、アニメファン向けの作品はDVDやBlu-rayといった映像商品で収益をあげるビジネスモデルである。
ところが、キッズファミリー向け作品は国内では少子化やテレビ枠の減少(対象が限られる子ども向け作品は一般的にスポンサーが付きにくい)が逆風となり、海外では既述した放送コードの問題でキャラクター商品販売には欠かせない地上波ネットワークやキッズ専門チャンネルでの放映が難しい。
また、アニメファン向け作品に関してはネットでの無料視聴が一般的となり、特に海外でDVDなどの映像商品を売ることが困難になっている(国内では一時急激に下がったものの、ここ4年ほど横ばい状態が続いており、ほかのジャンルがかなりの幅で落ち込んでいることを考えると大健闘している)。
だが、劇場アニメに関しては、ネットでの違法先行配信の心配がなく、ファーストウィンドウ(最初に世の中に出して、ビジネスをする場)の映画館から確実に収益が上げられるということもあり、このところ活性化の兆しをみせている。もちろん、この映画のビジネスモデルは世界中で有効であり、中でも一番期待が持てるのがジブリなのである。
1999年に北米でポケモンの劇場作品『Pokemon : The First Movie』(邦題『ポケモン ミュウツーの逆襲』)が最初の週末(金・土・日)の3日間で3104万ドル(当時のレートで約33億円)のチケットを売り上げ、全米興行チャートの1位となり国内外の関係者を驚かせた。この快挙を再現できる最短距離にいるのがジブリであることは衆目の一致するところだろう。ポストジブリは、やはりジブリなのではないか。
増田弘道(ますだ・ひろみち)
1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。
ブログ:「アニメビジネスがわかる」
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