なぜ新幹線は飛行機に“勝てた”のか:新連載・どうなる? 鉄道の未来(1)(7/7 ページ)
鉄道の未来は厳しい。人口減で需要が減少するなか、格安航空会社が台頭してきた。かつて経験したことがない競争に対し、鉄道会社はどのような手を打つべきなのか。鉄道事情に詳しい、共同通信の大塚記者と時事日想で連載をしている杉山氏が語り合った。
寝台列車を廃止した理由
大塚:JR側は寝台特急廃止の理由を「高速バスなどとの競争激化による乗車率の低下や、車両の老朽化」と説明しています。しかし、車内サービスの工夫や車両の更新といった営業努力もせずに次々と廃止してしまっている現状は残念でなりません。
JR東日本の長年の悲願だった東京都心部の品川〜田町間にある車庫のスペースを活用した新駅設置と再開発が最近になって動き出しましたが、知人のJR幹部は「JR東日本は以前から再開発を狙っており、車庫を使う客車を追い出すことが寝台列車の廃止を進める一因となった」と明かしていました。
杉山:先日、私は高山本線(岐阜〜富山)に乗りました。青春18きっぷで、富山から乗って、高山で観光して、岐阜へ出て、その日のうちに東京へ戻ろうと思って時刻表をみると、朝イチで富山から乗らなければいけない。朝イチに富山へ行くにはどうすればいいのか調べたところ、夜行バスしかなかった。それもいわゆるツアーバスに乗って行きました。高速路線バスだと始発に間に合わないんです。
昔は高山本線の始発に間に合う時間帯に急行「能登」や寝台特急「北陸」などが走っていましたが、今はもうありません。今は8両も10両もつなげて列車が走る時代ではないんだなあ……と思っていたら、ツアーバスのほうはたくさん走っているんですよ。富山駅の北口では、朝の5〜6時に東京や大阪からのツアーバスが何台も来る。つまり、お客さんはたくさんいるわけですよ。
夜行需要というのは日本にもある。あるのにもかかわらず、なぜ鉄道会社は寝台車を次々に廃止してしまったのでしょうね。
大塚:本当にそう思いますね。豪華寝台特急に関しては時間と金銭的余裕がある中高年向けに商機があり、上野と札幌を結ぶ「カシオペア」、大阪〜札幌の「トワイライトエクスプレス」は予約を取るのが大変というほどの人気を集めています。
それらの成功に目を付けて、JR九州も九州を一周する豪華寝台列車を来年夏から運転します。しかし、一般的な夜行列車については利用客を増やすための営業努力や工夫をしている形跡が見られず、座して死を待つ姿勢にしか映りません。
(続く)
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