デザインで商品を再活性化せよ――スコッチ メンディングテープの挑戦:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
「テープディスペンサーは使用頻度からすると99%は活動していないが、その1%の使用機会をいかに楽しく、驚きに満ちたものにするかがチャレンジだったんだ」。住友スリーエム初のデザインマネージャーとなったフィリップ・レフュアー氏に、進化したデザイナー文具について聞いてきた。
デザインの力をマーケティングの基本セオリーで売りにつなげる
前々回の「ノンワイヤーブラとカラオケをフレームワークで分析しよう!」で紹介したフィリップ・コトラー氏のフレームワーク「製品特性3層モデル」で考えてみよう。
製品を購入して実現したい中核価値はテープディスペンサーの場合、「テープが切れる」ことである。逆に言えば、今回スリーエムがフォーカスしたデザインは、中核価値とは直接関係のない「あればウレシイ=付随機能」だ。
一般に、製品のPLC(Product Life Cycle)が進めば進むほど、求められる価値は付随機能へと移行していく。その意味で一連のデザインされたテープカッターは製品戦略の王道を歩んだと言える。
特筆すべきは、今回のテープディスペンサーは付随機能としてのデザインが優れているだけではない点にあろう。従来のカタツムリ型と比べて、テープを包み込む形状であることから、テープ自体にホコリが付いたり汚れたりしない。また、キレイにテープが切れて、テープ本体に巻き付くような状態にならないという切れ味を実現している。つまり、中核価値を実現するための欠かせない要素である「実体価値=切れ味、テープの保護」も向上させているのだ。
もちろん商品というのは、優れたもの(Product)を作っただけで売れるというものではない。マーケティングの定番フレームワークである「4P」で考えれば、ほかの3つのP、価格(Price)、販売チャネル(Place)、販売促進(Promotion)との整合も求められる。
価格は商品の特性からして、「手に取って使われてこそ」だ。いくら優れたデザインであるからといって、手を出しにくい高価なものであってはいけない。そのため、294円と設定された。市場に広く行き渡ることを意図した「ペネトレーションプライシング(市場浸透価格設定)」である。
販売チャネルは一般の文具店だけでなく、LOFTや東急ハンズといった「こだわりのターゲット」が集うチャネルをおさえることに注力した。
プロモーションは商品力を活かし、POPなどで目立たせるという店頭訴求を行っている。
前述の通り、商品を再活性化するためのコツの1つは「商品力の強化」である。商品の価値構造を明確にして現在のPLCで求められる要素を的確に提供し、さらに価値を高める要素を補完していくということが欠かせない。そして、もう1つは「商品力を補完する要素を適切に展開する」ことだ。つまり、商品力だけに頼るのではなくそれを高めるべく、4Pをターゲットが魅力的に感じるようにミックスすることだ。
再活性化が求められる商品は市場に多数存在する。「スコッチ メンディングテープ」のテープディスペンサーの事例は、マーケティングの基本セオリーを忠実に踏襲することの意義について、改めて考えさせてくれる。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。Facebookでもいろいろ発言しています。
関連記事
- リストバンドで接客に意思表明、渋谷ヒカリエ「CLINIQUE」の施策はアリか?
渋谷ヒカリエにできた「CLINIQUE」のショップが初導入したサービス。腕につけるバンドの色で販売員に「急いで買いたい」「1人でゆっくり見たい」「相談したい」と無言の意思表示ができるという。それって、本当に売り上げアップにつながるの!? - ネスレのコーヒーマシン「バリスタ」の壮大な計画
ネスレ日本が2009年に発売したコーヒーマシン「ネスカフェ バリスタ」が2012年2月までに販売台数80万台を突破と気を吐いている。同社の戦略を勝手に分析してみよう。 - フードは缶詰だけ、“缶'sBar”はオイシイ商売か?
JR秋葉原駅近くの高架下にできた、フードは缶詰だけというバーが賑わっているらしい。その魅力を、定番フレームワークを用い、顧客視点・店舗視点の双方から分析してみた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.