コラム
「入社2年目の若者」が新型水着を開発、どのように?:窪田順生の時事日想(4/4 ページ)
仕事では「経験」がものを言う場面もあれば、その「経験」によって新しい発想がでない、なんてこともある。時と場合によっては「素人」だからこそみえることがある。アシックスが五輪代表に提供している水着はまさしくそんな一例だ。
「素人」だからこそ気づくことがある
「素人」ならではという発想は他にもある。例えば、彼は「レーザー・レーサー」に代表されるような「水着の常識」を覆したのだ。
「これまでは水着だと、キックの際にお尻のあたりの生地がかなり激しく突っ張っていることが動作分析で明らかになりました。そこで3度ほど太腿を前方に曲げた縫製にしたのです」
これまでの水着は、きつく締め付けて、面積を小さくしていかにストリームライン(流線型)をつくるかということがテーマだった。「曲がっている水着」など聞いたことがない。森さんの提案は、社内でも物議を醸し出したが、彼は何度も実験を繰り返して、その結果をもって理解を求めたのである。
こうして誕生した水着が「CFー1」。オリンピック代表にも提供され、選手からも「着心地がいい」と評判だ。女子100メートルバタフライで日本記録を更新した加藤ゆか選手や、平泳ぎの鈴木聡美選手をはじめ多くの使用者がいる。
よく我々も会議で「ゼロベースで考え直そう」とか言うが、果たして本当に「ゼロ」に立ち戻れているのか。「素人」だからこそ気づくことがあり、「素人」だからこそ新しいものが生み出せる。「CFー1」はそんなことを我々に教えてくれる。
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