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コラム

「入社2年目の若者」が新型水着を開発、どのように?窪田順生の時事日想(3/4 ページ)

仕事では「経験」がものを言う場面もあれば、その「経験」によって新しい発想がでない、なんてこともある。時と場合によっては「素人」だからこそみえることがある。アシックスが五輪代表に提供している水着はまさしくそんな一例だ。

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肉体にできた抵抗を減らすこと

 森さんがまず始めたのは、とにかく自分自身が試すということだった。

 「僕自身が水泳に詳しくなかったので、まずは他社の水着も含めて自分で着てみて、いろいろな動作を分析してみました。そこであることに気づいたんです」

 それは足にあらわれる“波”だ。みなさんもプールで試すといいが、バタ足でもカエル足でも、キックをすると脂肪がブルブルと揺れる。これは振動学では「フルッタリング」と呼ばれるものだ。そんなの当たり前じゃん、と思われるかもしれないが、森さんはそこに着目した。

 水中では些細な出っ張りが抵抗となって推進力を落とす。ゼロコンマ1秒を争う世界ではかなり大きな抵抗だ。ということは逆に、一流スイマーの腿の“揺れ”をおさえれば、さらにパフォーマンスを引き出すことができるのでは。

 しかし、問題はどうやってということだった。自分で水中キックをしている動作を撮影し、その映像を再生。何度も繰り返して見ているうちに、森さんは“揺れ”にある法則があることを発見する。

 足先からふくらはぎ、膝から腿、そして臀部……脂肪の揺れはまさしく“波”のように伝播していた。それは見ようによっては、震源地から広がる地震のようにも見えた。

 その時、森さんにあるアイディアがひらめく。

 「だったら間に柔らかい素材を入れたらどうだろうと考えました。(建物の)免震構造でも下に緩衝剤があると上にのっている建物は揺れない」

 腿のあたりの糸を変えて、柔らかい素材を入れてみると、“波”は大幅に減った。つまり、肉体にできた抵抗を減らすことに成功したのだ。

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