新聞社が、「奇跡の一本松」記事を書き続ける理由:さっぱり分からなかった、3.11報道(2)(4/4 ページ)
大震災の津波に耐えた岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」。復興のシンボルにもなったこの一本松を、新聞社はなぜ何度も記事にしたのだろうか。その理由について、ジャーナリストの烏賀陽弘道氏と作家の相場英雄氏が語り合った。
烏賀陽:記者が取材をして書く、という行動はもともと個人的な作業のはずです。1人の人間がココとココとココを見て、Aさん、Bさん、Cさんに会って話を聞いて、記事を書く。これが基本的な形であるはずなのに、新聞を500万部を刷らなくちゃいけない、800万部を刷らなくちゃいけない、1000万部を刷らなくちゃいけないとなった。しかも12時間で締め切りに間に合わせなければいけない。こうした商業的・社会的な要請が発生して、全国紙は大きな組織を作っていった。しかし、その瞬間に何か違うモノに変質してしまったのではないか。
例えば○○新聞に記者が2000人いれば、ある事象は2000分の1に細分化される。3.11という巨大な現実を2000人でよってたかって書いても――元の1には戻らないんですよ。砂粒をいくらつなぎ合わせても、元のお城には戻らない、というような感じで。
アナログ型マスメディアは、もう針がレッドゾーンに振り切れてしまったのではないでしょうか。巨大化、肥大化し、振り切れてしまった。元に戻れない。記者の署名を入れてルポを書くというのを、ごまかし的にやっていますが、それで針がレッドゾーンから戻るかというと、戻らないと思う。
記者が取材をして書く。この報道の作業を、個人のレベルに戻さないと、アナログ型の巨大メディアに未来はないと思いますね。
(つづく)
2人のプロフィール
烏賀陽弘道(うがや・ひろみち)
1963年、京都市生まれ。1986年に京都大学経済学部を卒業し、朝日新聞社記者になる。三重県津支局、愛知県岡崎支局、名古屋本社社会部を経て、1991年から2001年まで『アエラ』編集部記者。 1992年にコロンビア大学修士課程に自費留学し、国際安全保障論(核戦略)で修士課程を修了。1998年から1999年までニューヨークに駐在。 2003年に退社しフリーランス。著書に『「朝日」ともあろうものが。 』(河出文庫)、『報道の脳死』(新潮社)、『福島 飯舘村の四季』(双葉社)などがある。UGAYA JOURNALISM SCHOOL、ウガヤジャーナル、Twitterアカウント:@hirougaya
相場英雄(あいば・ひでお)
1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo
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