「インフルエンスの波」をつくった――数少ない成功事例:ソーシャルインフルエンス(2/3 ページ)
「自閉症」について知っている人は少ないが、どのようにすればこの発達障害を広めることができるのだろうか。子どもたちを支援するNPOは考えた末、Facebookを使うことにした。その結果……。
まずは、ソーシャルメディア上のエバンジェリストを探索するところから開始された。モニタリングツールを駆使して、ソーシャル上ですでに自閉症について発言している人、あるいはチャリティや寄付に興味のある人、デジタルキャンペーンに興味のある人などを片っ端からリストアップしていく。つまり、必ずこのキャンペーンに興味や関心を持ち、参画し、さらにクチコミを広げてくれるであろう人たちを、あらかじめ把握しようというわけだ。
次に、シーディングコンテンツとして、このキャンペーンのティザームービーを作成した。これは、直接的なPRの役割を持つと同時に、あらかじめリストアップしたエバンジェリストに提供し、彼らとつながる何百、何千、何万人という友人やフォロワーに広めてもらうための「武器」としての役割も果たした。このムービーを通じて、自閉症の子どもたちとその支援への共感を獲得する。
次に、インフルエンサーだ。当然ながらCMやプロモーションの契約ではないので、金銭そのものではなく、共感を得られるかどうかがポイント。社会的責任も大きいインフルエンサーには、自閉症への関心に加えた「大義」も必要になる。
また、もうひとつ重要なポイントとして、インフルエンサーに期待するアクションの問題もある。いくら共感や意義を感じてもらったところで、それが例えば1カ月間も拘束するようなキャンペーンだったり、12時間もかかる遠い国にまで出かける必要があると、現実的なハードルはあがってしまう。しかし「コミュニケーション・シャットダウン」で期待することは、1日だけ自身のアカウントを閉鎖すること。たったこれだけだ。
アプローチの結果、数多くのセレブや文化人が参画した。オーストラリア出身のスーパーモデル、ミランダ・カー、人気俳優のスティーブン・セガール、アポロ11で有名な元宇宙飛行士のバズ・オルドリン、自閉症患者でもある著名な動物学者、テンプル・グランディンなどだ。
こうして、ジワリジワリとソーシャルメディア上で話題を広めながら、最後の仕上げとして展開したのが大規模なマスコミPRだ。「コミュニケーション・シャットダウン」が実行される2週間前から、一気呵成にメディアキャンペーンが開始された。戦略PR会社ローランドがメディアツールキットを準備した。
メディアツールキットは、グローバルな企業ではよく作成される。広報担当者が物理的に離れていること、PRの指針が国によってブレる場合があることなどから、基本メッセージ、メディアに提供できる素材集、取材対応可能なインフルエンサー、メディア対応時の注意点などがまとめられたものだ。
ローランドはこれをネットワークした各国の自閉症基金団体へ提供し、世界中でのPRの統一化も徹底した。ねらいどおり、「世界で初めてソーシャルメディアを1日だけ閉鎖する」という企画のユニークさ、「ソーシャルメディア中毒」という旬の話題感、そして「自閉症の啓発」という社会性の高さから、数多くの新聞やテレビがこれを取り上げ、それがまたソーシャルで話題になるというスパイラルで、確実に11月1日の「Xデー」に向けた盛り上がりが醸成されていった。
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