人間の滑稽さをなぜ伝えないのか? 報道されない現場のネタ:さっぱり分からなかった、3.11報道(4)(4/4 ページ)
震災関連のニュースを、マスコミはどのくらい報じたのだろうか。ひょっとしたら、まだまだ伝えていないことがたくさんあるかもしれない。この問題について、ジャーナリストの烏賀陽弘道氏と作家の相場英雄氏が語り合った。
就職先を選べない
烏賀陽:南相馬市の住民でこんな人がいました。親は山形県に避難したけど、息子は就職が決まったので地元に残った。「どこに就職したのですか?」と聞くと「東京電力の火力発電所」と言っていました。東電が大変な事故を起こしたために、家族はバラバラになってしまった。それでも地元で就職するとなれば、東電を選ばざるを得ない。彼らは就職先を選べない。
「東電はけしからん!」とけちょんけちょんに切って捨てるのは、就職の選択肢のある都会人の贅沢で、福島の地元に残った人は、お金をもらうのはそこしかない。そんな現実がある。「ブラブラして腐ってるくらいなら、東電で働こう」と言えば、誰も文句を言えない。ましてや都会人がどうこう言えることではない。
相場:ですね。
烏賀陽:そんな調子で、現場に入ると、24時間見ること聞くことがすべてネタなんです。あまりにニュースが多くてヘトヘトになります。例えば、福島の人は「福島の魚、野菜はとても食えない」と堂々と言います。そりゃそうです。どれくらい放射性物質が降り積もったか、海に流れ出たか、一番知っているのは地元民です。でも都会の人は「福島の野菜を食べて復興を支援しよう」とか言っている。福島の人は「危険なので、やめてください」と言う。なんだか、滑稽ですよね。
(つづく)
2人のプロフィール
烏賀陽弘道(うがや・ひろみち)
1963年、京都市生まれ。1986年に京都大学経済学部を卒業し、朝日新聞社記者になる。三重県津支局、愛知県岡崎支局、名古屋本社社会部を経て、1991年から2001年まで『アエラ』編集部記者。 1992年にコロンビア大学修士課程に自費留学し、国際安全保障論(核戦略)で修士課程を修了。1998年から1999年までニューヨークに駐在。 2003年に退社しフリーランス。著書に『「朝日」ともあろうものが。 』(河出文庫)、『報道の脳死』(新潮社)、『福島 飯舘村の四季』(双葉社)などがある。UGAYA JOURNALISM SCHOOL、ウガヤジャーナル、Twitterアカウント:@hirougaya
相場英雄(あいば・ひでお)
1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『震える牛』(小学館)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo
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