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ジェームズ・ボンドに恥をかかせた米大統領候補伊吹太歩の世界の歩き方(1/2 ページ)

米大統領選挙の共和党候補ロムニーが初の“外遊”で大失点。彼の失言で図らずも明らかになった英国諜報部「MI6」の思惑とは。

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著者プロフィール:伊吹太歩

世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材し、夕刊紙を中心に週刊誌や月刊誌などで活躍するライター。


 「どこぞのクソ田舎でオリンピックをやるなら、そりゃ警備も簡単だろう」――英国のデービッド・キャメロン首相がロンドンオリンピック開幕直前に、こう言い放った。

 7月27日に華々しく開会したロンドンオリンピック。次々と世界中から英国を訪れる首脳やVIPの中に、2012年11月に行われる米国大統領選挙の共和党候補ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事がいた。

 米国のメディアは、この訪英が彼の外交能力を判断する最初の重要な外遊だと位置付け、ロムニーにとっても大統領選に向けてアピールする大事な外国訪問になるはずだった。だが、彼は訪英初日にやらかした。

 米NBCテレビのインタビューに対して、ロムニーはロンドンオリンピックの準備について、こう発言した。「民間警備会社が十分な人員を確保できず、入管と税関職員によるストライキ予定など、いくつかの不安要素がある」「(五輪が)うまくいくかどうか分からない」

 オリンピックの成功に疑問を投げかけたこのコメントに対して、キャメロン首相は冒頭のように反論した。「どこぞのクソ田舎」というのは、米ユタ州のソルトレークシティのこと。ロムニーが、2002年にソルトレークシティで行われた冬季五輪組織委員長を務めたからだ。

触れてはいけない部分に触れてしまったロムニー

 ロムニーの「失言」はこれだけにとどまらなかった。記者会見で「触れてはいけない部分」に触れてしまい、大統領を目指す競争で大失点となる。ロムニーは、「MI6の長官ら」と会談し、「シリアと、シリアの平和な未来への希望について話をした」と語った。さらにシリアだけでなく、イラン、チュニジア、リビア、パキスタン、アフガニスタンについても話をしたと暴露した。

 この発言が思わぬ騒動を生んだ。というのも英国の諜報機関、情報局秘密情報部(SIS)、通称MI6はその活動を一切公表しておらず、秘密主義で知られている。

 英ガーディアン紙の記者によれば、MI6長官との面談は「(アフガニスタン駐留米軍の司令官を務めた)デービッド・ペトレアスと会った、と自慢するのとは訳が違う」と指摘している。国家の秘密情報機関に関する情報や活動などは秘密にあふれており米国の大統領候補が公言していいはずがないという。1994年にその「存在」を初めて公式に認めるまで、英政府がMI6の存在すらずっと認めてこなかったことからも、MI6に関しては慎重を期するべきだ、と。

 MI6に関するロムニーの発言への非難は、少しかわいそうな面もある。もっと言えば、ロムニーがサワーズと会談したという事実を隠す必要はそもそもないのではないか。最近ではMI6をめぐる情報に関しては比較的オープンになってきている。2010年には史上初めて長官が公に講演を行い、国民を驚かせている。

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