ジェームズ・ボンドに恥をかかせた米大統領候補:伊吹太歩の世界の歩き方(2/2 ページ)
米大統領選挙の共和党候補ロムニーが初の“外遊”で大失点。彼の失言で図らずも明らかになった英国諜報部「MI6」の思惑とは。
なぜロムニーが特別扱いされたのか?
どうやらMI6側にはこの会談を隠密にしたい事情があったようだ。専門家らによれば、MI6長官が国際問題について国家の首脳ではない人物に情報提供をすることは非常にまれなことだと言う。ではなぜロムニーが特別扱いされたのか。
その裏には、英政府が次期大統領にロムニーを望んでいるとの見方が出ている。どういうことかと言うと、現大統領のバラク・オバマは、ムアマル・カダフィ大佐が殺害されてすでに政権が代わったリビアに関しても、現在激しい内戦状態にあるシリアにしても、欧米の軍事介入に躊躇する姿勢を見せている。
MI6にしてみれば、リビアやシリアのようなこれまで扱いにくかった国々が親英・親欧米の政権に代わることは国益にかなう。さらにそこで欧米が軍事的に大きな影響力を行使して、独裁的な政権の交代や「国民の解放」に大きな役割を果たせば(軍事的な装備を見ても、もちろん果たすだろう)、特に地域のパワーバランスや地政学的にも英国が優位な立ち位置を得るチャンスになる。さらに天然資源などを確保しやすくなり、優位に市場に入り込むことができるという経済的な点からも、国益にはかなう。
軍の情報機関として1912年に設立されたMI6は、政府の安全保障、防衛、外交、経済政策を支援するために情報を収集する機関だ。MI6が国益のために今のうちからロムニーに接触し、大統領になった後にシリアに対する軍事介入に前向きになるよう知恵を付けようとしていても何ら不思議ではない。
外遊デビューでメダル獲得ならず
ただそれが公になるといろいろと厄介だ。まずロムニーが勝利する保証がないこと。さらに現大統領はオバマであり、彼にあわせる顔がなくなる。大統領選でオバマが再選すれば、ロムニーを青田買いしようとしたMI6の面目はなくなる。オバマに言い訳するという、大変な仕事が1つ増えるだけだ。さらにシリアに関して言えば、「国民の自由と民主主義」や「人権問題」のための介入という大義名分が、実は自国の利害のためだとばれてしまう。
そう考えればMI6がロムニーとの会談を認めないのも分かる。ロムニーとMI6のジョン・サワーズ長官の会談についても、MI6は一切認めない姿勢を貫いている。
ロムニーがわざとばらしたという見方はほとんど出ていないが、ロムニーにしてみれば、英国が例えばイラン攻撃を密かに決定していて、そのスケジュールを暴露してしまったというわけではない。米国人の感覚なら、注目度の高いロムニーが、MI6の長官に会ったことをメディアが嗅ぎ付けないわけがないとも考えるだろう。
いずれにせよキャメロンとのやり取りで、ロムニーが大統領候補として外交手腕で大きく減点されたことは間違いない。さらにMI6の思惑を図らずも漏らしてしまったことで、英国との信頼関係という意味でもさらに減点されたはずだ。外遊デビューでメダル獲得とはいかなかったようだ。
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