累計販売数10億本、森永乳業の高級アイス「パルム」のヒミツ:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
累計販売数10億本というアイスクリーム「PARM(パルム)」シリーズ。新商品「PARM ピュレコーティング オレンジ&バニラ」も1カ月で年間目標の半数である710万本を売る破竹の勢いを見せている。パルムの「売れ続けるヒミツ」を森永乳業のブランド担当者に聞いた。
続くコンセプトは「イエナカ・リゾート」
その後パルムは年100億円の売り上げを達成するに至り、森永乳業の社内では新たな挑戦の機運が盛り上がってきた。「チョコ素材以外で、新たな顧客を創造しようと考えたのです」(同)。
「平日に家の中でゆったりと毎日食べる」。そんなパルムのコンセプトは十分に浸透し、独自のポジションを手に入れた。既存製品の主な顧客層は20〜30代の独身有職女性。ここからさらにお客を増やすため、次はどのようなシーンを狙うか。
毎年繰り返しやってくる猛暑。今年の夏も暑くなるだろうと予想して、開発チームは氷系のアイスに狙いを定めた。氷系のアイスといえば代表格は赤城乳業の「ガリガリ君」だろう。食べれば確実にカラダをクールにしてくれる。だが、それはどちらかといえば物性的な価値だ。対するパルムは「外から帰ってきて、家の中でゆっくりとしながらカラダも気持ちもクールダウンする」。そんなコンセプトが考案された。
新たな商品は「PARM(パルム) ピュレコーティング オレンジ&バニラ」(右写真)。なめらかなオレンジアイスとしっとりしたバニラアイスを、オレンジ果肉とオレンジピールを含む果汁で包んだアイスバーの誕生だ。それは、パルムのコンセプトである「毎日のちょっとしたぜいたく」=「デイリープレミアム」に、「リゾート」の要素を取り入れた新商品である。
面白いデータがある。森永乳業の調査によれば、実際に「パルム ピュレコーティング オレンジ&バニラ」を食べた70%以上の対象者が「リゾート地に出かけたようなちょっとしたぜいたくな気分を楽しんでいる」という。そこから「イエナカ・リゾート」というメッセージが新たに設定された。
パルムの従来のターゲットが20〜30代の独身有職女性であるのに対し、ピュレコーティング オレンジ&バニラは40〜50代の中高生の子どもを持つ主婦がメイン。子どもが大きくなり、一緒に長期旅行をする機会も少なくなる。その「自分時間」を「イエナカ・リゾート」というコンセプトで狙っているのである。
リゾートを感じるパッケージ。「ガリガリ」ではなく、「しっとり」としたぜいたくな食感。そしてすっきりとした味わいで従来のチョコ系のパルムともカニバリすることなく、すみ分けが成立するスグレモノの商品なのだ。
プロモーションは寺尾聰をセレブレティーとしてテレビCMをスポットで投下したが、それ以上に口コミが効果を発揮した。試食会などで実際に口にしたファンがFacebookやTwitterなどSNSで自ら情報を拡散し始めたのである。これにより、根強いパルムのファンからの支持も証明された。
現在、パルムブランドはアイスクリームの業界で5位だという。その中で、「男性を取り込んでいくのが課題なんです」と担当者は今後の課題を語った。パルムのブランド認知率はまだまだ低く、特に男性のそれが低いという。パルムの最大の武器は「デイリープレミアム」という明確なコンセプトだ。それをどのように男性向けに展開していくか。今後も挑戦は続く。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。Facebookでもいろいろ発言しています。
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