編集者が認めれば「良い仕事」……といった時代は終わり?:佐々木俊尚×松井博 グローバル化と幸福の怪しい関係(6)(3/3 ページ)
ライターが書いた文章は、プロの編集者が認めなければ世に出すことは難しかった。しかしネット環境が整った今、こうした関係にも変化の兆しがうかがえる。
仕組みをつくらなければいけない
松井:Twitterはそういったビジネスモデルの構築に役立つとお考えですか?
佐々木:私は毎朝キュレーションをしていて、10数本の記事を紹介しています。フォロワーからの反応をみると、面白ネタへの反応が多いんですね。堅い記事を紹介しても、あまり反応はないのですが、読んでいる人は読んでいる。数値化はされませんが、その部分は見なければいけないでしょうね。
松井:私もブログを書いていて、自分なりに面白いのが書けたなあと思っても、反応がさっぱりのときがある。そうかと思うと、ものすごくやっつけで書いたものが、数多くの人に読まれたりする。よく分からないですよ。
佐々木:良質な読者と良質なコンテンツと良質な書き手を、どのようにすればうまくつなげることができるのか。いまはこの形を模索している状況だと思います。もしこのような形ができれば、ソーシャルメディアを基盤にして、メシを食える人がたくさんでてくるのではないでしょうか。
クラウドソーシングの世界では、何かの案件があれば、必ずダンピングする人が出てくる。例えばWeb制作の相場が10万円だとしても、1万円で引き受ける人が出てくる。つまり逆オークション状態になるんですね。こうした問題をどのようにすれば避けることができるのか。
そこでクラウドソーシングを提供する会社の人たちの間では、過去の実績や評価などをきちんとつくっていくしかないなあといった声があります。
松井:必要ですね。
佐々木:ブログでも同じだと思うんですよ。過去に書いてきたものが、きちんと評価される仕組みをつくっていかなければいけません。クラウドソーシングの仕事もやってきた仕事のやり方やその人がどういう人とつながってきたのか――といった仕組みにしなければいけないと思う。
松井:なるほど。
(つづく)
2人のプロフィール
佐々木俊尚(ささき・としなお)
作家・ジャーナリスト。
1961年兵庫県生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。毎日新聞社、月刊アスキー編集部を経て2003年に独立し、IT・メディア分野を中心に取材・執筆している。『「当事者」の時代』(光文社新書)『キュレーションの時代』(ちくま新書)『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー21)など著書多数。総務省情報通信審議会新事業創出戦略委員会委員、情報通信白書編集委員。
松井博(まつい・ひろし)
神奈川県出身。沖電気工業株式会社、アップルジャパン株式会社を経て、2002年に米国アップル本社の開発本部に移籍。iPodやマッキントッシュなどのハードウエア製品の品質保証部のシニアマネージャーとして勤務。2009年に同社退職。ブログ「まつひろのガレージライフ」が好評を博し、著書『僕がアップルで学んだこと』(アスキー新書)を出版。現在は2冊目の『私設帝国の時代』(仮題)を執筆中。twitterアカウントは「@Matsuhiro」
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