検索
連載

相続? 消滅? 宙に浮く? ネット資産がユーザーの死後にたどる末路古田雄介の死とインターネット(2/3 ページ)

ネットバンクの口座や電子マネーといったインターネット上の資産は、ユーザーが亡くなった後にどう処理されるのか。実際の状況をベースにひも解いてみよう。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

ネットバンクも能動的に生存確認するのはレアケース

 まずはネットバンクの現状をみてみよう。ネットバックも基本的なサービスや資産の取り扱いは一般の銀行と変わらない。ただし、前述のように遺族が口座の存在自体に気付きにくいという固有の問題をはらんでいる。楽天銀行は「カードや通帳などがあれば、ご遺族の方もすぐにお気付きになるかと思うのですが、ネットバンクは必ずしもそうとは限りません。ご利用されていた事実が発覚されないまま月日が経っているケースも多くあると思います」と語る。

 その対策として効果的なのは、やはり身近な誰かに口座を伝えることだ。「家族や知人、弁護士などで、信頼できる方。最低でも1人にネットバンクを利用していることを伝えておけば、早期に発見されて手続きがスムーズに進むと思います」(同)という。また、ソニー銀行は「安全のために口座番号は未記入にして、金融機関名と支店名のみを書いておくのはいかがでしょうか」と、市販の相続ノート(エンディングノート)の活用も提案する。

 基本的に口座所有者の死亡が発覚するきっかけは、遺族や相続人(場合によっては警察)からの連絡がほとんどなので、周囲の誰かがアクションを起こさないと何も始まらない。これは銀行全般だけでなく、ほかの多くのオンラインサービスにも当てはまるのは過去の記事の通り。

 ただし、例外もある。ジャパンネット銀行は、2006年5月から同行の取引に必要となるパスワード表示装置「トークン」を(一部休眠口座を除く)口座所有者に送付している。トークンは動的なパスワードを表示するため取引がセキュアに行えるだけでなく、有効期限が5年という特性もある。期限が迫る頃に同行が新規のトークンを発送するので、5年に一度は口座を所有している証拠が物質として届くことになる。また、同行は最終取引から10年が経った口座所有者に紙の案内レターを送付する取り組みも実施している。こうした送付物をきっかけに遺族がネットバンク口座に気づくというパターンはこれから増えてくるかもしれない。


ジャパンネット銀行のトークン解説ページ。液晶画面に1分ごとに切り替わる動的なパスワードが表示される仕組みだ。取引の際は、本人認証として表示中の数字を入力する流れとなる

一定ペースで進められている相続手続き

 口座所有者の死亡が確認された後はどうだろうか。口座を一時凍結し、遺族などによって相続方針が確定した後、それに沿って口座の解約や指定口座への振り込みといった処理を行うのは、一般銀行と共通の流れ。ただし、ネットバンクでは相続人との話し合いに店舗のカウンターではなく、電話やメール、書類の郵送などを利用することになる。どうしてもやりとりが煩雑になるため、最近は安全な範囲で処理を簡素化する取り組みを進める銀行が多い。

 ソニー銀行は「口座名義人のお客さまが亡くなられた場合、以前はカスタマーセンターがいったん受けるものの、ご質問はすべて相続の担当部署が対応していました。2010年10月からはその体制を見直し、一般的な内容であれば、カスタマーセンターでもすぐに回答できるように整え、よりスムーズなお手続きをサポートしています」という。

 住信SBIネット銀行は、この5年間で、残高30万円未満の口座の手続きを簡素化したり、残高0円での相続手続きにおいて書類徴求を一部省略したりするなど、状況に応じて処理を簡略化する変更を進めている。その一方で、「遺言や遺産分割協議書がない場合は、被相続人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を徴求して婚姻・認知などの履歴の有無を確認したり、相続人全員分の戸籍謄本と印鑑証明書を徴求したりするなど、法定相続人であることの確認を厳格に行っています」と、個人が特定しづらいネットバンク特有の傾向にも全力で向きあっている。

 これらの取り組みから、実際の相続手続きも一定のペースで実施されている。楽天銀行は個人口座が年間50万口座増加する傾向の中で、相続のための凍結口座も年間1000件ペースで増加しているという(2012年9月末時点)。ジャパンネット銀行は2011年度の相続受け付け件数が、法人込みの口座数234万件に対して、1230件だった。住信SBIネット銀行の場合、ここ1年間の相続手続きは662件で、手続きが完了した口座は563件になるという。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る