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コラム

ノーベル賞の陰で広がる、“向ける取材”とは相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

ノーベル賞の話題でメディアが盛り上がっている。文学賞の有料候補とされていた村上春樹氏の受賞はなかったが、メディア各社は受賞時のお祭りに備え、準備を進めた。だが、この間、いくつか首を傾げるような報道姿勢がうかがえたのだ。

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 夕刊用配信の締め切りが迫っていた。手早く原稿をまとめないとデスクにどやされる。新人記者だった私はかなり焦っていた。

 10分ほど話を聞き、礼を言って電話を切った直後だった。隣の席で一部始終を見ていた先輩記者がいきなり私の椅子を蹴り上げた。そのとき、先輩記者はこう言い放ったのだ。

 「向けてんじゃねえよ、バカ」

 先の横山氏の文章にある「警察の台本通り被疑者に供述させる」にご注目いただきたい。「警察」の部分を「マスコミ」に置き換えると、当時の先輩記者の怒りの根源を理解いただけるはずだ。

 新人だった私は、「記者として最も恥ずべき行為」をやっていたのだ。

 識者コメントをまとめる前段階で、統計について強気の見方をする人物と、逆の意見を持つ専門家を探せとデスクに指示されていた。しかも短時間で取材し、記事をまとめるというプレッシャーにさらされていたと先輩に抗弁した。

 すると、もう一度椅子を蹴り上げられた。

 「向けて引き出したコメント使うくらいなら、原稿を落した方がましだ」――。

 デキの悪い新人記者にこの言葉は堪えた。この一件以降、私は「向ける」という行為がいかに恥ずべきことか、今も取材時に噛み締めている。


「向ける」という行為は恥ずべきこと(写真と本文は関係ありません)

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