ヒット商品の方針転換は成功するか? グリコ乳業「ドロリッチ」の挑戦:それゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)
ヒット商品を作るには。そして、ヒット商品をロングセラー化するには。グリコ乳業は“デザート飲料”というカテゴリを創出したヒット商品「ドロリッチ」で、商品開発の一大テーマであるその解を「環境変化への対応」と導き出した。
2011年――転機、そして新製品の投入へ
ドロリッチは2007年10月に九州地区から徐々に限定発売のエリアを拡げ、2009年には一大ブームを巻き起こし、市場を席巻した。2008年6月2日の日経新聞はPOS情報を分析する「店頭商品浮き沈み」欄「チルドコーヒーゼリー」カテゴリで、「『ドロリッチ!』首位独走」とすでにその快進撃を伝えている。同時点での発売エリアは九州、関東のみであったにも関わらず「一位はグリコ乳業の飲むタイプのカフェゼリー『ドロリッチ!』で、シェアは十九・六%。(中略)同社のメーカーシェアも約十五ポイント押し上げ、日本ミルクコミュニティを抜いて首位に立った」。
しかし、翌2010年から徐々に売り上げは右肩下がりになってきた。理由は明確だ。PB(プライベートブランド)の拡大で棚が狭められたことと、他社のタピオカ飲料など「食感飲料」としての競合の出現である。手作りスイーツブームで消費者の舌が肥えてきたことも原因だ。購入者数、購入回数とも減少傾向が明らかになってきたのである。
「ブランドの延命のためには、ブランドエクステンション(派生商品の投入)が行われます。我々もいくつかの商品を投入しましたが、その後、もはや本体商品のテコ入れが欠かせないと判断しました」と担当者は言う。
市場のさらなる変化も明確になっていた。グリコの調べで2007年当時と比較すると、朝・昼・夕の「基本の三食」の崩壊が進んでいた。朝・昼の欠食に加えて、夕食も欠食する傾向が見て取れた。では、その変化は何を表しているのか。「おやつ化する食」である。基本の三食が乱れる一方、間食シーンは平日10時、15時、16〜17時、20時、22時という5回のピークが確認できたという。
デザートの食事化。その市場ニーズの変化を受けて、開発チームは「コロンブスの卵」的な方針転換を決めた。今までも製品改良を行ってきたが、それらはすべていかに味をよくするか、風味をよくするかという「コーヒー」部分の改良であった。しかし、ニーズの腹持ち満足感を満たすためには、ゼリーとクリーム感の改良に踏み切ることが欠かせない。そこで、製品の構造を従来から根本的に改めることとなった。特筆すべきは市場の変化に対応して、開発チームが社内を俊敏に動かしたことだ。通常、1〜2年程度を要する開発期間を、わずか6カ月に短縮したのである。
従来は容器の中では「クリームがコーヒーゼリーにほどよく不均一に包まれた状態」になっていた。それを、クリームを「ホイップクリーム」に変更し、「ゼリーの上に乗った状態」に作り替えたのである。飲む時に強く振ることでホイップクリームの中にコーヒーゼリーが浮いているような状態となり、「クリームたっぷりのデザートを食べたときのような満足感を味わえるようになった」という。
製品の進化は明確だ。筆者も取材時に現行製品と新製品を飲み比べたが、クリームの濃厚さが際立ち、味わいと、腹持ちの良さが格段に向上した。試飲会ではあるコンビニエンスストアのバイヤーは「新発売当時の感動を思い出した」と感想を漏らしたという。
この新製品が、いよいよ2012年10月22日に北海道〜関西地区で、11月5日に中四国地区以西で発売される。CM展開の他、そのコンセプトと新たなる製品価値は「体験すれば分かる」ということで、サンプリングなども計画しているということだ。リニューアルによって、市場のニーズをとらえたモノとなっているか、一度お試しすることをおすすめしたい。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。Facebookでもいろいろ発言しています。
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