注文はFAXと人海戦術だなんて……超アナログな出版業界の衝撃:Google副社長の発言が(後編)(4/4 ページ)
ビジネス本を出版することになったものの、出版に関しては完全に素人の村上氏。世間ではITの普及で業務の効率化が進んでいるが、出版業界ではFAX注文、営業は人海戦術とアナログ感に満ちていた。そんな“業界ショック”を受けながらも、無事に出版までたどり着けたのだろうか。
ソフトウェア業界の太古の神話を使った「地道な書店営業」
実は、原稿もゲラもできてないうちから書店営業をしていました。他社は人海戦術で全国で営業しているなら、こちらは時間をかけて地方営業するしかありません。
受託業界の原則。ソフトウェア業界の太古の神話。つまり、ソフトウェア業界で多くの悲劇を生み出した「人月の神話」です。大昔より、ソフトウェア業界ではこう言い伝えられています。
「その者、青き衣をまといて、人数×時間が同じであれば、工数も同じにならん……」 プログラマーのみなさんは、ご存じの通り悲劇しか産まない言い伝えですが、これを使うしかありません。
原稿ができてないうちから荒尾さんと地方営業に行き、電車の中で原稿を書いて、特急電車の接続部で東京にいる編集担当の岡本さんと電話で校正をし、書店に「タイトルしか決まってない本の注文を取る」ということをしていました。見本? ゲラ原稿? サンプル? そんなのナシです。タイトルと根性だけです。
本当に「ソーシャルもうええねん」だけで売ってました。大阪営業の時は表紙も決まってませんでした。そもそも書店員はネットをあまり知らないので、内容を説明するのが面倒です。ですから、書店員には本の内容すら説明してません。途中からは表紙と特典だけで、注文を取っていたように思います。
荒尾さんの神営業で、注文がそこそこ取れました。
書店のみなさんは、よくこんな状態でご注文していただいたと思います。特に、何店舗かで100冊以上、時には200冊以上を置いてもらえることが決定した時は「そもそも、この表紙も決まってない本を、100冊も200冊も注文して面積的にどこに置くのだろう……」と逆に申し訳ない気分になりました。
荒尾さんが「これは事件です。今まで『Nanaブックスだから、7冊』なんてふざけた注文だったのに、100冊なんて事件ですよ」と驚いていました。最終的に取次さんから飛んできた数字は、予想を超えました。
「太古の神話」を使った書店営業の結果、発売すらしていないのに初版1万部で足りなくなりました。発売1週間前には、重版3刷になってました。
小さい出版で本を作ることの面白さ
今回の本の作り方は、全体的に普通ではありません。大きい出版社で普通に本を作っていたら、このようなことにならなかったと思います。
何だか、ベンチャーが大きくなっていくような過程を感じました。
もちろん、まだ大した部数も刷ってないので、ヒット作になったわけではありません。5万部くらいいかないと目立った本にならないです。危機感を持って何かを行うと、結果というものはついてくるのかもしれません。
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