ユーザーが亡くなったページの権利と責任は誰のもの?――法の観点から見た死とインターネット:古田雄介の死とインターネット(3/3 ページ)
インターネット上に浮かぶユーザーの死という事態について、さまざまな現場の現状を探ってきたが、法的にはどんな線が引かれているのか。落合洋司弁護士にうかがった。
サイト管理人レベルの責任は誰も背負えない
では、責任についてはどうか。放置されたブログや掲示板でよく問題になるのは、特定の誰かを誹謗中傷する書き込みだ。管理人が亡くなった後にフィッシングサイトのURLを埋め込んだスパムコメントであふれたサイトも多いし、うらみを持つ人物の実名を残して自殺した例もある。これらに対応する責任はどうなるのだろう。
周囲に迷惑をかける書き込みがなされた場合、サイト管理人が自ら気付いたり削除依頼を受けたりして削除することになる。その管理人が亡くなって不在になった場合、措置が可能なのはブログや掲示板を提供するサービス運営会社ということになる。責任の所在も借り手から借り主に移るように思えるが、無数に提供しているブログや掲示板の内容を把握するのは不可能に近い。
そこで2001年に「プロバイダ責任制限法」(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)が作られた。これはサービスの提供元が追うべき責任の範囲や条件を規定する法律で、大ざっぱに言えば、知らない情報に対して責任を負わせないようにしている。
例えば、管理人が死亡したブログのコメント欄に実名付きで脅迫めいた文章が書かれた場合、誰も何も言わなければサービス提供元が知るよしはなく、仮に当人に被害が発生しても賠償責任は生じない。そこまで監視する義務はないのだ。それでも責任がゼロになるわけではなく、「権利侵害を通報されたけど、何も手を打たずに被害を拡大させたりした場合は免責されない可能性もあります」という。
ただし、プロバイダ責任制限法にのっとった責任は、サービス提供元がサイト管理人の生死に関わらず常に負っているもの。サイト管理人が亡くなった場合、サイト管理人と同じレベルの責任を負う存在はいなくなるのだ。直接的な管理人がいないサイトが増えると、上記のような迷惑な書き込みが増えてネットの治安が悪化してしまう。韓国では韓国インターネット振興院(KISA)主導で2006年と2010年に休眠ホームページの整理をうながすキャンペーンを実施しているが、日本でも同様の取り組みが必要になるかもしれない。
また、現在の常識から照らし合わせて何の問題のないコンテンツでも、死後何年も経ったネットの世界ではにらまれて、何かしらの対応を迫られる可能性がある。直近の典型例は「忘れられる権利」だ。犯罪歴や職歴など本人が掘り起こしたくない記録についてネット上に永続的に残ることを拒む権利で、EUでは2012年1月に概念を提唱するリリースを発表している。
近い将来、日本国内にも浸透してくる可能性は高い。落合氏は「従来のプライバシーや個人情報保護では対応しきれない、人格権の1つとして深められていく可能性がありますね。ただ、過去を消したい人の利益と、資料性や公共的な利益が両立しない場合も出てくるので、どんどん過去の情報が消されていくという感じにはならず、程度問題で対応が進んでいくと思います」と語る。
そうした新しい概念が広まった時、対応する管理人が不在な場合はどんな措置がとられるのか。具体的なビジョンは法律とサービス運営会社の規約の整備を待つしかない。「今は過渡期ですからね。ただ、不備があると多くの人が感じていることの取り決めは、5年後10年後と悠長なことを言ってられないでしょう」
次回は、これまでの情報を踏まえて、ユーザーの側からみた、ネット資産に対する死の備え方をまとめたい。
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