アニメ海外進出のカギは何? 大切なのは産業と文化の並立:アニメビジネスの今(3/3 ページ)
アニメの市場規模を増やすための議論を行ったアニメビジネス・パートナーズフォーラムのテーマ・ワーキング。そこで筆者が感じたのは「中国から東南アジアへのシフト」「オールジャパン体制」の2つであるという。
文化としてのアニメ
やや前置きが長くなったが、あるABPFのワーキングで筆者が「日本のアニメ100周年記念プロジェクト」(日本のアニメは2017年に100周年を迎える)を提案した時、著名製作スタジオの方がこの種の文化案件について、「今までアニメを一度も文化とし考えたことがない」という旨の発言をした。日本のアニメ産業は非常に娯楽・産業寄りであることは自分もよく承知している。
次図はCartoon(子ども向けを対象としたキッズ・ファミリーもの)、アニメーション(Cartoonよりは高度で芸術的要素を含むもの)、アニメ(日本で独自の発展を遂げたもの)の文化度や娯楽・商業度を示す位相図である。
日本以外の国々ではほとんどが黄色の子ども向けCartoonが主流で、娯楽的要素も強いが教育・文化的な作品も多い(一部、ドリームワークスが作る大人向けアニメーションもあるが)。アート・アニメーションは全世界に共通の位相である。それに対して、青が日本のアニメの位相だが、かなり娯楽・商業寄りに位置している。テレビで放映されているキッズアニメも海外と比べると娯楽色が強く、教育・文化アニメもNHKなどでオンエアされているものの、量的には非常に少ない。
また、大人向けの作品があるのがアニメの最大の特徴となっているが、これも娯楽に徹底している。このような状況において、「アニメは文化にあらず」と思うのも当然であり、また文化と商業主義は両立しないという思いもあるのかもしれないが、今後の海外戦略を考えると、それでは片手落ちであると思われる。
一般的に、伝統芸能のように文化的側面が強調されるようになると、娯楽性、すなわち大衆性が衰えたと見なされる傾向がある。アニメ産業の当事者としては、文化的な評価は伝統芸能化=盛りを過ぎた産業につながるのはないかと懸念し、その側面はあまり強調したくないという思いもあるだろうが、ハリウッドを見れば分かるように文化と商業の両立は可能である。
逆に、商業面での成功だけではなく文化的な評価もなければ、海外で社会的に認められるのは難しい。商業主義だけの娯楽と見なされてしまえば産業としても非常にマイナスなのである。その意味で、今後、アニメが文化として評価される必要性は大いにある。
幸い、海外ではマンガ、アニメ、ゲーム、ファッションなど日本のポップカルチャーに対する評価が高まっている。これを利用しない手はないが、その前に自らの評価軸をキチンと決めて発信する必要があるだろう。日本人は自分たちの文化に対する評価が苦手である。
前回の「邦高洋低化するエンタメ業界」でも書いたが、浮世絵を“発見”したのはフランス人だった。海外でアニメはすでに文化である。しかし、日本にその自覚はない。マンガ、アニメ、ゲーム、ファッションなどのポップカルチャーについて、海外では第三のジャポニズムと言われているが、これは例によって日本人の意図したものではない。我々日本人は自分たちの文化に対する評価に対して、あまりに無自覚・無関心過ぎる。アニメの未来は、自らの文化を自らの評価に基づき、自らが発信することにあるはずだ。
増田弘道(ますだ・ひろみち)
1954年生まれ。法政大学卒業後、音楽を始めとして、出版、アニメなど多岐に渡るコンテンツビジネスを経験。ビデオマーケット取締役、映画専門大学院大学専任教授、日本動画協会データベースワーキング座長。著書に『アニメビジネスがわかる』(NTT出版)、『もっとわかるアニメビジネス』(NTT出版)、『アニメ産業レポート』(編集・共同執筆、2009〜2011年、日本動画協会データーベースワーキング)などがある。
ブログ:「アニメビジネスがわかる」
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