泥臭くたっていいじゃないか! 漫画『重版出来』にみる出版界の今:相場英雄の時事日想(1/4 ページ)
「また老舗雑誌が休刊」――。出版界を取り巻くニュースに触れる際、このような“枕詞”が必ずつくが、実際のところはどうなのか。出版界の問題点などを鋭く突いている、漫画『重版出来』を紹介しよう。
相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール
1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『震える牛』(小学館)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)、『鋼の綻び』(徳間書店)、『血の轍』(幻冬舎)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo
「また老舗雑誌が休刊」「電子書籍の台頭で中小出版社が経営難へ」――。昨今の出版界を取り巻くニュースに触れる際、このような“枕詞”が必ずつく。
小説と漫画原作の執筆をなりわいとし、業界内部に身を置く者として、不穏な響きのある枕詞はとても他人事ではない。こうした業界事情について、インターネットなどの分析記事には業界の病巣を鋭く突くものがある一方、上辺だけの取材を経た誤解に近い内容も多い。
今回取り上げるのは、昨今の出版界を俯瞰(ふかん)した上で、漫画としてのクオリティーが高い作品だ。タイトルは『重版出来』(じゅうはんしゅったい/松田奈緒子・小学館ビッグコミックス)。ワンピースのように一度に数百万部を刷るビッグタイトルではないが、現在この作品はジワジワと売り上げを伸ばしている。その背景を探ってみた。
重版出来とは
まず、作品タイトルを説明せねばなるまい。本書カバーの説明書きを引用する。
一度出版した書籍を再び、または何度も印刷することを「重版」という。その重版が出来上がり、書籍として販売することが「重版出来」
業界内部の人間として一番驚いたのが、なんと大胆なタイトルをつけたのかという点だ。1年に何人もの作家がデビューするが、そのうちの多くが一度も重版がかからずに消えていく。このタイトルを冠した単行本が売れず、重版につながらなかったらどうするんだよ、というのが作品を読む前に私が抱いた率直な感想だ。
だが、実際に読み始めると、それは杞憂(きゆう)に終わった。私はプロとして漫画原作を書いている。画は描けないが、漫画の善し悪しは分かる。この作品は、ここ数年でも相当なエネルギーを有していると断言できる。
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