泥臭くたっていいじゃないか! 漫画『重版出来』にみる出版界の今:相場英雄の時事日想(2/4 ページ)
「また老舗雑誌が休刊」――。出版界を取り巻くニュースに触れる際、このような“枕詞”が必ずつくが、実際のところはどうなのか。出版界の問題点などを鋭く突いている、漫画『重版出来』を紹介しよう。
前置きが長くなったが、ストーリーを少しだけ紹介しよう。オリンピックへの夢が破れた体育会系柔道部員の女子大生が大手出版社に就職するところから物語が始まる。多少アクの強い女性編集者が先輩や漫画家に鍛えられ、一歩ずつキャリアを積み上げていく。漫画として定番の“成長モノ”だ。
同時に、主人公を取り巻く出版社も細かく描かれている。同じように業界の内部事情を扱った作品としては、『編集王』(土田世紀・小学館ビッグコミックス)、『働きマン』(安野モヨコ・講談社モーニングKC)がある。
両タイトルともに大人気のベテラン漫画家が描いた名作だ。両者と比較されるのは松田氏には酷かもしれない(私も大先輩作家と比較されたらたまらん)。だが、両作が描かれた時点と現在では明確な違いがある。それは、出版界の疲弊度が格段に高まっているというポイントだ。『重版出来』では、両ヒット作を進化させた上で、業界の今を緻密に現在進行形で綴っている。
リードで業界の病巣と触れたが、本書の中でも登場キャラがこんなセリフをつぶやく。
今、出版不況なんて言われてるけどな。バブルの頃からのツケが出てきた部分もあるんだ。ほっといても本が売れたから売る努力をしない営業も編集も山ほどいて……
このセリフ。私自身、担当編集者や営業マンとの打ち合わせの場で嫌になるほど聞くのだ。
仮に、本稿読者の中で出版社を志望する大学生がいたら、この作品は必読だ。漫画や小説の発行部数を決める「部決会議」のリアルな描写も出てくる。かつては“夢を売る”というイメージの強かった出版業界だが、現在は数字がモノを言うシビアな世界へと変質している。作品中に甘いセリフがないだけに、それだけ業界の苦境が読者にも伝わるはずだ。
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