コラム
泥臭くたっていいじゃないか! 漫画『重版出来』にみる出版界の今:相場英雄の時事日想(3/4 ページ)
「また老舗雑誌が休刊」――。出版界を取り巻くニュースに触れる際、このような“枕詞”が必ずつくが、実際のところはどうなのか。出版界の問題点などを鋭く突いている、漫画『重版出来』を紹介しよう。
「仕掛け」のリアルさ
シビアな現実、あるいは内情暴露が描かれているだけならば、この作品はじわじわと人気を集めることはなかっただろう。
苦しい業界事情の中でも、コンスタントに漫画や小説のスマッシュヒットが生まれる。その背後には、作品を売ろうという熱意を持った編集者や営業マン、そして読者との最前線にいる全国の書店員の存在がある。
『重版出来』の中では、ある地味な漫画作品がいかに「重版」を勝ち取るかのノウハウと過程が克明に描かれている。
業界用語でいうところの「仕掛け」だ。リードで触れた“上辺の”という部分に嫌味を込めた理由はここにある。仕掛けにフォーカスした記事や分析はあまり世に出ていないので、最後に触れておく。私事で恐縮だが、私は自著が「仕掛け」の方程式によって世に出たことをリアルに知る立場にある。
複数の担当編集者がこまめに営業マンや書店の仕入れ担当者と打ち合わせを重ねる。複雑な書籍流通システムの中で、営業マンが全国の仕入れ状況や在庫を詳細にチェックする。忙しい書店員が手書きのPOPで売場の展開を考えてくれる……。
同作でもかなり重点を置いて描かれているシーンを、私自身が体感しているだけに、この作品にほれ込んだという次第なのだ。
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