ホンダはなぜ、F1復帰を決めたのか――社長会見を(ほぼ)全文収録(3/5 ページ)
2008年にF1から撤退したホンダが、2015年、マクラーレン・ホンダとしてF1に復帰する。なぜ今復帰を決めたのか、ワークスチームではなくエンジンサプライヤーとして参戦する理由は? 緊急記者会見の模様を詳しくお伝えする。
質疑応答
伊東孝紳社長、マーティン・ウィットマーシュCEOの挨拶の後は、二人に加えて本田技術研究所取締役専務執行役員の新井康久氏が登壇し、三人での質疑応答が行われた。新井氏はF1を含む、ホンダの四輪レースの責任者である。
――F1からの技術が量産車に(影響を与える)、というお話がありましたが、逆に量産車からF1(への影響)ということを考えると、ハイブリッド車の技術が日本は世界でも優れていると思います。その割合はどれくらいでしょうか。また、今回の参戦は日本の技術力を世界に示す、すごくいいチャンスだと思います。こういうことで、日本が元気になるという側面もあると思うんですが、どう考えていらっしゃいますか。
伊東 レース車から量産車へ、量産車からレース車へ……これは難しい質問なので、割合はお答えしようがない。しかし、量産車のハイブリッドについては我々はいろいろやっていますし、そのうちいろいろなモデルでハイブリッド車が出てきます。ここに至るまでに、量産における信頼性とか、ハイブリッド車での走りの面白さとか、そういうノウハウは非常に蓄積されてきています。これを少しでもレースに役立てたい、というのは非常に関心のあるテーマです。
また、レースから(量産車へ)、というところでいくと、ダウンサイジングターボ+そこからまた回生をするという技術は、間違いなくこれから量産車にも影響を与える技術と思い、私はとても期待しています。かねてから、F1でも効率という軸が大きく打ち出されるときには、私たちには十分に参加する価値があるし、むしろここに積極的に加わっていくことで、正直いうと私たちもレースを非常に楽しみたいし、技術も量産車に応用していきたい。質問にあったように、それは日本が得意としている技術分野と思いますし、こういう活動をすることで日本が元気になっていくということには、非常に期待をしています。
――日本が技術が優れているということに対して、どのような期待をしていますか
マーティン・ウィットマーシュ 私へはホンダへの期待という質問ですが、確かにホンダはエンジニアリングの卓越した知識、実績があり、技術に対する思い入れはとても強いものがあると私も感じています。最近、ホンダとさまざまな形でコミュニケーションを図るにつれ、真の意味でのモーターレースへの強い熱意をとても感じることができました。(ホンダが)前にF1に関わっていたときにも、私は同じような印象を持っています。F1においても、昨今はさらなる低燃費化が求められるようになっており、社会の流れともいえます。ただF1の世界ではそれを採用するスピードが少し遅かったのではないか、というのが私見です。社会では低燃費化が強く求められており、それを実現するための技術をホンダは持っています。例えばダウンサイジングされた過給エンジン、あるいはハイブリッドの構成要素といったことです。それらの技術分野で卓越しているのがホンダです。そういった意味でも、ホンダに対して高い期待を抱いているということがいえます。私がマクラーレンに身をおいてから、この旅路は、もっともわくわくする冒険になると思うので、今後両者のパートナーシップをとても楽しみにしています。
――与えられた燃料をいかに効率良く燃やすか、ということではエコエンジンもレースエンジンも同じだと思うのですが、いかがでしょうか。もう一つ、先ほど伊東社長は「若い人がF1にチャレンジしたいと言うようになった」とおっしゃいましたが、私が割と最近聞くのは、「ホンダの社員が『大きな会社だから入った』というような人が多くなってきた」というものなのですが、最近は変わってきているのでしょうか。
新井 エコエンジンとレーシングエンジンは同じようなものか、ということですが、まったくその通りです。新しいF1のレギュレーションは、「どれだけ少ないエンジンでどれだけ速く走れるか」ということで「環境とFunをいかに両立させるか」という、量産環境車に求められるものと同じと思っています。ただ、チャレンジング領域としては、出力、効率を一番高いところに持って行かなくてはならないので、開発としては難易度が高く、非常にチャレンジングな開発になると思っています。
伊東 まあ、F1をやってるから入る、という社員は少ないんじゃないかというお話ですが……確かにそうかもしれないですね(笑)。でもそれに甘んじてはいけない。面白いことをしている、ワクワクする会社だ。ないしは、日本全体がそうなるようにもっていきたいとは、私も常々思っていますし、これからそういう姿を見て、少しでもそういう企業活動に参加したいと考える若者が増えることを、切に望んでいます。
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