最近、自宅を“開く”人が増えている――その魅力とは:これからのことがよく分かるコラム(1/5 ページ)
自宅の一部を開放して、地域の人たちや気の合う仲間と交流の場をもつ人が増えています。なぜそのような現象が増えているのでしょうか。取材をすると、興味深い実情が見えてきました。
著者プロフィール:
池本洋一(いけもと・よういち)
1972年、滋賀県生まれ。1995年リクルート入社。以来18年以上、一貫して住宅領域に携わる。『住宅情報都心に住む』『住宅情報タウンズ』『SUUMOマガジン』編集長を経て、現在は月間930万UUを誇る日本最大級の住宅情報サイト『SUUMO』編集長を務める。賃貸・分譲・注文・中古など住まいに関する消費者動向全般に精通、専門紙へのコラム執筆のほか年間の講演回数は60回に上る。『賃貸×カスタマイズ|SUUMO(スーモ)』などの運営にも携わっている。2012年10月1日より、株式会社リクルート住まいカンパニー在籍(株式会社リクルートから会社分割し新設された会社)。
最近、自宅の一部を開放して、地域の人々や気の合う仲間と交流の場をもつ「家を開く」人たちが徐々に増えてきています。その中心になっているのは、20〜30代前半の若者層(ポスト団塊ジュニア層)と定年を迎えたアクティブシニア層。自宅で知り合いを集めて料理教室などを開く例は過去にもありましたが、最近ではカフェやギャラリーといった“誰もが気軽に立ち寄れる”空間をつくるケースなど広がりを見せています。なぜそのような現象が増えているのでしょうか? 取材をしていくと面白い実情が見えてきました。
墨田区向島にある鳩の街通り商店街。80年以上の歴史を持つこの商店街には店をたたみ、空き家となった建物が少なくありません。こうした空き家を借り受け、住居兼店舗として利用する若い世代がここ数年増えています。都内の会社に勤める30代の女性は、長く空き家となっていた一軒家を自ら探し出し、大家と交渉した結果、2階を自らの居住スペース、1階を図書館とする空間を手に入れました。週末は紙芝居づくりなどのワークショップを開催し、地域の人々と盛んに交流しています。
「何か自分を表現したり、誰かと交流したりできる場所を持ちたいと思っていたものの、自宅と別にギャラリーなどのスペースを借りるのは予算的に難しい。そこで、自宅の一部を改造してスペースにできる賃貸物件があればいいなあと思っていました。ここはもともとお茶屋として使われていた建物で、閉店してからはオーナーが物置として使っていたようです。かなり老朽化していますが、だからこそ安く借りられたし、改造OKの許可もいただけたのだと思います」
SNSの発達により個人でもコミュニティづくりやイベント開催が簡易になった現在、仲間とリアルに交流するためのスペースを持ちたいと考える若者は増えています。老朽化して借り手がつきにくい空き家状態ならば、一部を改修してオープンなスペースを設けたいという入居者の相談にも応じてくれる可能性は大いにあると思います。
2008年のデータになりますが、日本の空き家は750万戸を超えています。一世帯当たりの居住人数も2.42人。日本では家が余り、部屋も余っているのです。余っている家や部屋の扱いに悩んでいる所有者とそれを活用したい若者。この両者の絶妙なマッチングは今後徐々に増えていく可能性を感じています。
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