富士山行きの鉄道は実現するのか――過去の歴史は「観光VS. 自然」でせめぎあい:杉山淳一の時事日想(1/6 ページ)
世界文化遺産登録が確定的となった富士山で、登山鉄道の動きがある。富士登山鉄道の構想は1910年から始まり、現在まで何度か立ち上がっては消えた。そこには自然保護運動との対立の歴史がある。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。
富士山の世界文化遺産登録がほぼ確定的となった。鉄道分野では富士急行の株がストップ高になり、観光客も増えるなど、早くも恩恵を受けているようだ。そこに富士登山鉄道の構想が浮上した。5月29日に富士五湖観光連盟は総会を開き、会長が「世界遺産登録を機に登山鉄道を実現させたい」と意欲を示したという。富士五湖観光連盟の会長は富士急行の社長だから、この発言は富士急行の延伸構想とも受け取れる。また、富士急行の堀内光雄会長は自民党の総務会長だった人物である。自民党政権復活の機運もあるかもしれない。
これに先じて5月16日には、山梨県知事、静岡県知事、NPO法人富士山クラブ理事長が会談した。富士山クラブ理事長が「富士山五合目の周辺を一周する、あるいは富士五湖をつないだ登山鉄道をつくるべき」と提案。山梨県知事は富士スバルラインを鉄道に転換する意向を示した。また、静岡県知事も県道(富士山スカイライン)を鉄道に転換するアイデアで、JRや私鉄へ働きかけたいと意欲を示している(参照リンク)。
静岡県側から鉄道構想が出たという点は興味深い。かつて富士吉田と御殿場は馬車鉄道が通じていた。山梨県側は都留馬車鉄道、静岡県側は御殿場馬車鉄道だ。2つの路線は県境の籠坂峠で乗り換えできた。都留馬車鉄道は大月からの富士馬車鉄道に連絡していた。つまり、大月から御殿場まで、山中湖経由の鉄道ルートが存在した。富士山クラブ理事長案はその復刻案ともいそうだ。
静岡県をも巻き込んだアイデアが実現すれば、富士吉田市から御殿場市まで、富士山観光の鉄道回遊ルートが完成する。登山客は富士山の縦走ルートを楽しめる。鉄道ファンの私としては、ぜひ実現してもらいたい。
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