トンネルだらけの沖縄新鉄道案は魅力に乏しい:杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)
「沖縄本島鉄道計画」が実現に向けて動き出した。沖縄県が実現性を高めるべく検討した結果を発表した。沖縄県民と世界の鉄道ファンが待望する鉄道だ。しかし、内容を見ると、目論見どおりの観光輸送は期待できない。
沖縄県の新構想は「鉄輪式リニア鉄道」
2013年5月に沖縄県が示した報告書の概要版はA4サイズ41ページにわたる。政府の事業調査案を精査し、実現性を高めるために建設コストや需要予測を見直している。沖縄県全体の交通網の未来像を策定し、那覇から離島を含めた各主要都市まで1時間でアクセスするという前提を立てた。その上で、この中では普通鉄道、トラムトレインを含む小型鉄道、モノレール、新交通システム、LRT、BRT(バス高速輸送システム)、バスなどの交通機関を比較した上で、トラムトレインではなく、全区間を高速な普通鉄道によって1時間以内で結ぶべきという方針にした。都市部は路面電車ではなく地下鉄道である。
ただし、建設費用を抑えるため、鉄輪式リニア鉄道を採用し、車両の規格は小さくする。鉄輪式リニア鉄道は、線路側に置いた磁石と車両側の電磁石を使って駆動する方式だ。都営地下鉄大江戸線、大阪市営地下鉄今里筋線、福岡市営地下鉄七隈線などで採用されている。車両側に大きな円筒式のモーターを搭載しないため車両を小さくできる。また、従来の鉄道よりも勾配に強い。
これまでの鉄道より小型とはいえ、この方式は最高時速100キロメートルの運行が可能。那覇空港と沖縄市は24分程度。那覇空港と名護は58分程度で結ばれる。現在、那覇空港と名護は高速バスで1時間50分程度かかる。約1時間の短縮は大きい。こうした高速サービスの提供という前提で、需要予測もやりなおした。
ルートは、那覇市と浦添市を結び、そこから沖縄市まで沖縄自動車道に近いルートを通る。ただし、ここから東に寄ってうるま市中心部を経由。次に西へ寄ってムーンビーチ付近へ、沖縄本島西岸を通って名護に至る。全体的に、沖縄自動車道の恩恵を受けにくかった地域に配慮されているようだ。
都市部を地下、郊外を地上とする鉄輪式リニア鉄道で、車両は4両編成。このスペックは横浜市営地下鉄グリーンラインのイメージが近い。運行本数はラッシュ時で那覇空港―名護が1時間当たり4往復。那覇空港―沖縄間の区間運転が8往復と想定している。運賃は乗車距離20キロメートル未満をゆいレール、20キロメートル以上をJR九州の運賃体系で試算したという。
運営コストを削減するために、改札を設けない「信用乗車方式」を採用し、駅の規模を小さくする。これは建設費用の削減にもつながる。また、無人運転の採用や無線式信号システムなど、研究段階の技術も挙げている。
他にも解決すべき課題が多いものの、用地買収などの準備に10年から15年、工事期間は約10年と見積もっている。その間に技術的問題は解決できそうなので、最短なら20年で開業する見込みだ。また、今後はうるま市までの先行開業の可能性も検討していくという。
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