蒸気機関車は必要なのか――岐路に立つSL観光:杉山淳一の時事日想(1/5 ページ)
かつて蒸気機関車といえば、静岡県の大井川鐵道やJR西日本の山口線にしかなかった。それだけに希少価値があり、全国から集客できたが、現在は7つの鉄道会社が運行する。希少価値が薄れたいま、SL列車には新たな魅力が必要だ。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。
いま、全国で7つの鉄道会社が蒸気機関車を運行し、観光の目玉として人々を集めている。どれもそこそこのにぎわいを見せている。しかし、蒸気機関車に懐かしさを感じる世代でもなく、鉄道ファンでもない、そんな人たちにとって、蒸気機関車の魅力とはなんだろう。
3年前、母と北海道を旅した。そのルートに釧網本線の「SL釧路湿原号」があった。母は私の予想以上に喜び「懐かしい……」を連発した。こんなに喜んでくれるとは、連れてきてよかったと思った。しかし、あまのじゃくな私は、誰かが喜んだり嬉しがったりすると、かえってさめてしまう。正直、母の喜びようが悔しかった。
私は母ほど蒸気機関車に懐かしさを感じない。母は戦中生まれで、生活のなかに蒸気機関車があった世代である。私は昭和40年代生まれ。物心がついた時、すでにほとんどの蒸気機関車は引退し、まわりは電車ばかりだった。私の蒸気機関車への関心は鉄道好きとしての対象のひとつに過ぎない。むしろ国鉄時代のディーゼルカーや電車に懐かしさを感じる。
JR東日本にお客を奪われた真岡鐵道
蒸気機関車の魅力とはなにか。それを考えさせられる出来事がもう1つあった。2011年に真岡鐵道でSL列車に乗ったところ、なんと、車内をちんどん屋が練り歩いた。寅さんのそっくりさんまで登場し、ラッパを吹きギターを奏で「さあ一緒に歌いましょう」が始まった。これにはびっくりし、あきれた。SL列車に乗ったからには、前方から聞こえる蒸気機関車の音を楽しみたい。それが鉄道ファンの心理であろう。それを台無しにするイベントである。
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