営業日報は本当に必要か?
営業日報を書かせること自体が無駄になっているケースは、実は少なくない。しかし営業日報を廃止して有効な営業指導を機能させるためには、あるハードルを超える必要がある。
著者プロフィール:日沖博道(ひおき・ひろみち)
パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。
営業改革における「課題」と「解決法」は基本的には個別で異なるが、営業マンに日報を書かせている会社の場合、それを続けるべきかが論点になることが少なくない。というのも、営業日報をちゃんと書くには毎日1時間程度(人によっては1時間半以上)の時間を費やす営業マンが多いのだが、大概はその時間に見合うだけの付加価値を生んでいないからである。特に悩ましいのは、営業日報を書くこと自体が目的化し、詳細な日報を書き上げて「仕事をした」気になってしまうことである。
多くの大手コンサルティング会社の「解決法」は、SFAシステム等の活用により営業日報を効率的に書かせることである。ちょっと前ならノートPC、今ならスマホかタブレット端末を使って、出先から移動時間や昼休みなどの隙間時間に営業状況を報告させるので、直行直帰もできて効率的。報告の基本パターンもあらかじめ登録しておいてプルダウンメニューで選べるので素早く入力できる、あとは自由記入欄で補足するだけ、とうたう。確かに従前よりは効率的になるが、本質的解決からはほど遠いと思う。
そもそも営業マンに日報を書かせる目的は何だろう。こう尋ねると、「営業マンの行動や案件の状況を上司やその上の幹部が把握するために決まっているだろう」とお叱りを受けそうだ。しかし営業幹部が個々の営業マンの日報に目を通している会社はまれである。直属の上司でさえ毎日は目を通せず、週に1〜2回に分けているという例が圧倒的に多い(実は、全部に目を通すだけでもマシなほうである)。それでも毎日書かせるのは、「上司が読んでいる」というプレッシャーを与えることで営業マンにサボらせないため、というのが多くの営業組織の本音であろう。
しかし本当に「サボり癖」のついた営業マンは、つじつまを合わせるためにさらに時間を使って営業日報を作り上げてしまうので、上司は文章を読むだけでは見抜けない。サボらずに真面目にやっている営業マンは、その日報を書いたからといって行動や顧客への提案内容が変わるわけではない。つまり、確実に営業マンの時間を消費しながら、本来の役割は果たせず付加価値はないのだ。
特にサービス残業が常態化しているような忙しい営業組織の場合、いっそのこと日報を廃止してしまうと、意外と簡単に余裕時間を捻出できてしまう。もちろん単に日報を廃止するだけでは、上司も営業状況を全く把握できず、何より会社として不安だろう。そこでどうするかは個別の解決策を考える必要がある。
小生の経験では、日報を廃止する代わりに営業マネージャーが面談で状況を把握し、直接に助言・指示をすることを基本にすることが有効なケースが多い(具体的なやり方は個々のケースで異なる)。観察しながら適切な質問をぶつけることができるので、営業マンがサボっている場合にはすぐに見抜けるし、状況急転の兆候に気づけずに手遅れになることもほぼなくなる。
ただし、このやり方が機能する条件がひとつある。営業マネージャーに経験と時間があることである。マネージャーになっている人は営業で実績を上げて出世したというのが普通なので、経験のほうは大概問題ない。では時間のほうはどうか。残念ながら、営業ノルマを持つプレイングマネージャーの場合には、部下に対し丁寧な指導をすることは現実的には難しい。どうしても自分のノルマを果たしてからでないと、そんな余裕は生まれないからだ。
従ってこのやり方を採用するためには、営業マネージャーからノルマを取り除き、営業チームのマネジメントに集中させるという大きな方針転換が必要になる。ここが一番高いハードルである。(日沖博道)
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