著者プロフィール:日沖博道(ひおき・ひろみち)
パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。
大概の営業というのは「売ってナンボ」「売れている奴が偉い」という意識が組織に染み付いているものである。それが高じると、うるさ型だろうが値引き幅が大きかろうが、とにかく買ってもらえるお客であればありがたい、となりがちである。
実のところ、「この案件を取ると、あとが大変だなぁ」というのは営業としては大抵の場合、予想できる。だから、“望ましくない”案件を無理やりにでも取りにいくというのは営業のエゴなのである。
売上が欲しいゆえに“望ましくない”案件を受注(または“望ましくない”顧客と取引)することは、次の投資をするための収益を削り、そのあとのクレームに関係スタッフの苦労が費やされることになり、企業としては大きな負担となる。職種・業種によってはそれで心労を重ねて「辞めたい」となるスタッフも出てくる。
顧客単位で調べてみたら、売上額は大きいがクレームや無理難題の要求も多く、対応する手間を考慮するとトータルで損失となっていた、という話は世間には意外とよくある(小生も過去のプロジェクトで経験した。なお、特定の顧客と取引することで市場への強烈なアピールになるため“戦略的な対応”をするというのは一種の投資であり、話が別である)。業種によっては案件当たりのインパクトが大きいために企業体力を大幅に奪うことすらある。
実際、SI企業や建設会社では、プロジェクト選別が十分できないために損失が膨らむという痛い経験を長い間繰り返してきた。教訓を学んでプロジェクトを峻別(しゅんべつ)するようになったのは実は最近のこと、という大手企業は少なくない。中堅・中小企業だといまだに「分かっちゃいるけど止められない」(古い!)というケースが多いようだ。そのために倒産または吸収合併されたといわれる企業もいくつか聞いている。これらの業界はプロジェクト方式なので案件ごとの収益が見えやすいが、他の業界でも本質的には同じことだ。
営業幹部はぜひ、経営者と戦略を共有してほしい。そして「勇気をもって“望ましくない”案件・顧客を断る」という方針を、経営者は営業全員に対し明示してほしい。(日沖博道)
関連記事
- “変われない組織”は若者から見放される
今後、ニッポンの営業組織は若者の募集に苦労するだろう。その最大要因は、企業自身が“人材使い捨て”体質化したことにある。 - 中国からの「撤退ブーム」が教えるもの
「脱中国」の動きが盛んだ。きっかけは反日デモと暴動だが、本質的には中国が手軽に儲かる生産地ではなくなったからである。それは労働者の権利を無視することで成り立っていたビジネスの構造が変質したということでもある。 - 営業マンの評価基準、“売上ベース”から変えるには?
営業改革の一環として報酬やインセンティブのベースとなる評価制度を「是正」するなら、反発を覚悟する必要がある。それでもやるのであれば……。 - 隣の芝生は何とやら、営業改革の最適解は社内にある
営業プロセス改革が不可欠と考えられる状況にあっても、踏ん切りがつかないというのはよくある。それを乗り越えたとしても、「青い鳥がどこかにいるんじゃないか」という安易な心理が台頭する。
関連リンク
Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.