著者プロフィール:日沖博道(ひおき・ひろみち)
パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。
営業組織は若い力を常に求める。それだけ気力、体力を要する職場であることも理由の一つだ。それ以上に、人と会い、話すことを習い性のようになるには、柔軟性がある若いうちのほうがよいと多くの企業が考えるからである(小生は年齢差より個人差のほうがずっと大きいと考えるが……)。
ところが今後、多くのニッポンの営業組織が若者の募集に苦労するだろうと小生は考えている。主な要因は3つある。一つは周知の通り、若者の絶対数がどんどん減っていることである。もう一つは企業側の問題で、「若者を育てる」能力が衰えていることである。最後はネット情報化である。後者の2つについては少々説明が必要だろう。
この“失われた20年”の間の就職難のせいで若者は、人を大切にしない企業に対しても、「就職できれば御の字」とばかりに応募してくれた。しかし成果主義と人件費削減のせいで、中堅の営業マンはやたらと忙しくなり、昔のように先輩が後輩をじっくり指導する余裕を失ってしまっている(バブル世代の一部には、みずからがきちんと指導されずにきてしまい、やり方が分からない人たちも混じっていよう)。
中には若手の営業マンを叱咤するだけでケアしない、若者使い捨て体質になってしまった企業もかなりあると聞いている。いわゆる「ブラック企業」化である。そうした企業の営業組織では、定着率を上げる努力を十分しないまま、営業マンの「取り換え」を繰り返してきた。就職難の時代にはそうした「ブラック企業的」なところにも応募が続いたゆえに可能だったやり方である。
“追い出し部屋”によりまだまだ働き盛りのオジさん達を追い出している大企業もまた、“人材使い捨て”文化に染まろうとしている。中には若手社員に対し「上が空くからキミ達には朗報だ」と暴言を吐く幹部もいるらしい。
しかしそうした“人材使い捨て”体質になってしまった企業の実態が、ネット上に漏れるようになっている。従来は“2ちゃんねる”など、ちょっとアナーキーな媒体ばかりだったので、情報自体が胡散臭いと見られてきた。しかしFacebookやTwitterといったSNSが普及した今、知人からの口コミを通して、企業の風評がごく一般の人の目に触れるようになっている。どこまで確かかはともかく、転職サイトの一部ではもっと直截的に企業の「ブラック度」が品評されている。
一旦「ブラック企業的」だという評価が定着すれば、若者の応募は極端に減る。本当のブラック企業だと社名を変えてしまうので痛くも痒くもないが、少し「ブラック企業」化した程度の「普通の企業」はこのトレンドの痛手を被る。働き盛りのオジさん達を追い出した大企業もまた例外ではない。口コミで実態が伝えられ、それを読んだ人たちが噂を増幅する。怖い時代になったと覚悟すべきである。
もしみずからの組織が“人材使い捨て”体質であると多少でも自覚するようなら、経営者および営業幹部はその体質を変えることを急がねばならない。上に述べたトレンドは未来の話ではなく今日の話である。そして一旦「ブラック企業的」だとみなされれば、(昔の「人の噂も七十五日」と違い今はネット上に残るため)その評判を塗り替えるには最低数年はかかるのだから。(日沖博道)
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