弘南鉄道大鰐線は存続できるのか――地方に存在する事情:杉山淳一の時事日想(1/6 ページ)
青森県の弘南鉄道の株主総会で、社長が「2017年3月までに大鰐線を廃止する方向で考えている」と語った。経営者として、赤字部門はすぐにでも廃止したいはず。それを3年後という期限で語ったが、そこに民間企業の苦渋が見え隠れする。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。
6月27日、青森県の弘南(こうなん)鉄道の株主総会で、社長が大鰐(おおわに)線の廃止に言及した。「株主総会の出席者からは、この件について特に意見や質問はなかった」と報じられている。弘南鉄道は民間の鉄道会社で、自治体が主導する第3セクターではない。しかし、経営を支援するため、弘前市など沿線自治体も出資しているという。株主である弘前市の市長は「寝耳に水で、経営者として軽率な発言」と非難したようだ。
しかし、弘南鉄道の社長に非はない。廃止に関しては社長談話であって、株主総会の議案ではなかった。そして株主の自治体首長は委任状を提出している。委任状には議題一覧が添付されているが、路線廃止については「まだ議案ではない」から通知されない。当日欠席すれば、当然、寝耳に水となるわけだ。
弘南鉄道社長の「株主総会の談話」という手段は正しい。経営者が1つの事業を廃止するにあたり、コソコソと一部の株主に打診するわけにはいかない。インサイダー取引につながるからだ。非公開の赤字路線経営会社だから、そこまで投資家の関心を持たれていないだろうけれど。ともかく、株主総会という場での談話は公正だ。むしろ株主総会に欠席しながら、後になって非難するほうに問題がある。
市民の大切な交通機関であり、経営が厳しい会社である。市長として株主総会に出席すべきだろう。鉄道にしてもバスにしても、路線廃止に至る要因に「無関心」がある。自治体の無関心、沿線の人々も利用しない、興味がない。あってもなくてもいい。そんな存在は消えてしまう。
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