弘南鉄道大鰐線は存続できるのか――地方に存在する事情:杉山淳一の時事日想(2/6 ページ)
青森県の弘南鉄道の株主総会で、社長が「2017年3月までに大鰐線を廃止する方向で考えている」と語った。経営者として、赤字部門はすぐにでも廃止したいはず。それを3年後という期限で語ったが、そこに民間企業の苦渋が見え隠れする。
開業時から赤字だった大鰐線
弘南鉄道大鰐線は、青森県の弘前市と青森県南津軽郡大鰐町を結ぶ13.9キロメートルの路線だ。起点の中央弘前駅はJR東日本の奥羽本線弘前駅とは離れている。終点の大鰐駅は奥羽本線大鰐温泉駅に隣接している。大鰐温泉は800年の歴史がある名湯であり、かつては花柳街が栄え、津軽芸者も多くにぎわっていた。今は静かになってしまったが、大鰐温泉駅は現在も東京からの寝台特急「あけぼの」が停車する。主要駅という位置付けである。
大鰐線は、戦後の好景気時に地元の有力者たちが中心となって立案され、弘前電気鉄道として1952年に開業した。実際には地元の有力者だけでは資金のめどが立たなかった。しかし、三菱電機が建設を支援した。電車に使う部品を三菱電機が開発し、弘前電気鉄道の車両に組み込み、運用テストを兼ねようという目的があったらしい。大鰐線は三菱電機にとって、鉄道分野事業進出の戦略の1つだった。同様の例として、三菱電機や三菱重工などが出資した湘南モノレールや、三菱電機が協力した新京成電鉄がある。
大鰐線は奥羽本線の駅間の地域に駅をつくり、奥羽本線を補完する役割を担おうとした。しかし、実際には弘前―大鰐間の長距離客は国鉄に持っていかれ、短距離客はバス路線に奪われてしまった。経営不振が続き、三菱電機は撤退。開業から18年後に弘南鉄道に譲渡された。開業以来、もうかった試しがない路線だった。それを弘南鉄道が引き受けた理由は、「地元の公共交通を担う」という自負があったのだろう。
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