開通から70年……山陽本線関門トンネルの“寿命”が近づいている:杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)
本州と九州を結ぶトンネルは4つあるが、その中で最も古いのが山陽本線の関門トンネルだ。戦時中の開通から70年。着工から77年。修繕にも限界をきたし、新たなルートが必要となっている。
鉄橋とトンネルのどちらがいいか……そして鉄道は?
トンネルと吊り橋のどちらがいいか。建設費用で考えるとトンネルになろう。しかしメンテナンスとしてはどうか。おそらく、浸水、腐食の面ではトンネルのほうがランニングコストが掛かりそうだ。耐久性については、躯体の外側の鉄板を厚くすれば、100年や200年は耐えられる。
一方、吊り橋のメリットは防災面のメリットが大きい。しかし、台風の影響で通行止めになる可能性を含んでいる。私としては本四連絡線のように、車窓から関門海峡を眺めたいところだけど、どうもトンネルに分がありそうだ。かつて関門鉄道トンネルがつくられた経緯は、橋だと艦砲射撃の標的になるという理由だった。冷戦も終わり平和になったとはいえ、国防面も考慮する必要はある。
それよりも気になる点がある。関門海峡道路建設促進協議会、関連自治体の文書資料を探しても、道路に関する材料ばかりで、鉄道についての枠組みが見当たらない。道路の促進協議会だから道路に特化しているという理屈は分かる。自治体も管轄できる部分は道路のみであろう。鉄道に関しては、現在の関門鉄道トンネルを保有するJR九州か、新幹線の新関門トンネルを保有するJR西日本の出番のはずだ。あるいは鉄道・運輸機構であろうか。しかし、私が探したところでは、これらの名前は新関門ルート構想には出てこなかった。
国道も鉄道も、古いトンネルについて深刻な問題を抱えている。しかしその取り組み方に温度差がある。うがった見方をすれば、旧建設省と旧運輸省のタテ割りの弊害が、国土交通省になっても残っているのではないか。そうであれば、行政改革とは何だったのかと言いたくなる。
関門鉄道トンネルは限界がきている。代替ルートをつくるにしても早急に着手しなくてはいけない。九州行き寝台特急がなくなり、長距離旅客需要が新幹線に移ったとしても、地域の旅客輸送や貨物の分野で鉄道の役割は大きい。現状では貨物列車の増発は不可能で、荷主の要望に沿ったダイヤも組めない。
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