フランスの列車事故は他人事でない――日本にも警鐘を鳴らしている:杉山淳一の時事日想(4/6 ページ)
フランスで大きな列車事故が起きた。7両編成の特急列車が駅を通過しようとしたところ脱線し、少なくとも7人が死亡。重傷者多数。原因は線路にあるという。その背景に鉄道経営のトレンド「上下分離」がありそうだ。
フランス列車事故で報じられていない「上下分離」
フランスのメディアでは線路の老朽化を指摘する論調が増えているようで、NHKの報道によるとキュビエ運輸相も老朽化を認めている(参照リンク)。ただし、産経新聞によると、線路敷設や維持管理を担当するフランス鉄道網は「老朽化は安全性の低下に影響しない」と反論したという(参照リンク)。
確かに、古い線路であっても、保守整備が万全であれば安全な運行は可能だ。日本の幹線鉄道も100年以上の歴史がある。つまり、この事故の問題は「保守整備が万全であったか」に絞られそうだ。フランス国鉄(SNCF)は保守の不具合の可能性を認め、フランス国内5000カ所の分岐器で、該当する部品を点検しているという。つまり、具体的な報道はされていないが、部品の特定はできているようだ。そこをきちんと対策すれば、今後は同様の事故を防げるだろう。これは今後の安心材料のひとつといえる。
しかし、部品の特定はできたとしても「なぜその部品の保守整備に不手際があったのか」という問題は残る。実はここに、フランスの鉄道の構造的な問題がある。それは、フランス国鉄だけではなく、欧州の鉄道網に潜む問題でもある。さらにいうと、日本の鉄道にだって無関係ではない。日本の鉄道事業者、鉄道を利用する私たち、鉄道施策を考える関係者にも学ぶべきところがある。フランスの鉄道事故は、日本の鉄道施策への警鐘となりうる。
フランスの鉄道の構造的な問題、それは「上下分離施策」の弊害である。日本ではどの報道もそこに触れていない。これでは事故の背景は見えない。
関連記事
- 鉄道ファンは悩ましい存在……鉄道会社がそう感じるワケ
SL、ブルートレイン、鉄道オタク現象など、いくつかの成長期を経て鉄道趣味は安定期に入った。しかしコミックやアニメと違い、鉄道ファンは鉄道会社にとって悩ましい存在だ。その理由は……。 - 「青春18きっぷ」が存続している理由
鉄道ファンでなくても「青春18きっぷ」を利用したことがある人は多いはず。今年で30周年を迎えるこのきっぷ、なぜここまで存続したのだろうか。その理由に迫った。 - なぜ新幹線は飛行機に“勝てた”のか
鉄道の未来は厳しい。人口減で需要が減少するなか、格安航空会社が台頭してきた。かつて経験したことがない競争に対し、鉄道会社はどのような手を打つべきなのか。鉄道事情に詳しい、共同通信の大塚記者と時事日想で連載をしている杉山氏が語り合った。 - JR東日本は三陸から“名誉ある撤退”を
被災地では、いまだがれきが山積みのままだ。現在、がれきをトラックで運び出しているが、何台のトラックが必要になってくるのだろうか。効率を考えれば、鉄道の出番となるのだが……。 - あなたの街からバスが消える日
バスは鉄道と並んで、地域の重要な移動手段だ。特にバスは鉄道より低コストで柔軟に運用できるため、公共交通の最終防衛線ともいえる。しかし、そのバス事業も安泰ではないようだ。 - なぜ「必要悪」の踏切が存在するのか――ここにも本音と建前が
秩父鉄道の踏切で自転車に乗った小学生が電車と接触して亡くなった。4年前にもこの踏切で小学生が亡くなっている。なぜ事故は防げなかったのか。踏切に関する政策を転換し、「安全な踏切」を開発する必要がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.