なぜJR北海道でトラブルが続くのか:杉山淳一の時事日想(5/7 ページ)
JR北海道で車両火災などトラブルが頻発している。車両の新旧や該当箇所もまちまち。共通の原因を見つけ出すとするなら、それは車両ではなく運用だ。JR北海道は昨年、整備体制の不備を会計監査院に指摘され、国土交通省から業務改善命令も受けていた。
マニュアルが守られない理由
なぜマニュアルは勝手に無視されるのか。参考になる論文がある。熊本大学教授の吉田道雄氏が2009年に著した「職場における規則およびマニュアル遵守を阻害する要因 (1)」と、2012年に著した続編「職場における規則およびマニュアル遵守を阻害する要因(2) : 病院における課題の分析」だ。この論文は病院の事例を挙げているが、人命を預かるという緊張感は鉄道にも参考になる。
上記を参考に、マニュアルが守られない理由を、鉄道事故の観点を加えて整理すると次のようになる。
(1)マニュアル作成者が現場を理解していない
マニュアルは専門技術に長けた人が作る。ただし、現場の経験がないと利用者がうまく扱えない。マニュアルの作成者と利用者に認識のズレがあると、利用者はそのズレを独自の判断で埋めようとする。
鉄道車両整備の場合、鉄道はダイヤ厳守。整備の現場では時間との戦いだ。マニュアルに示された順序では間に合わない場合は手順を無視されやすい。現場を理解し、効率よく作業できるマニュアルが必要だ。JR北海道の場合、車両整備を子会社に委託している。こうした会社間の壁は、委託料の精算や雇用の確保など事務的な部分だけにしておいて、現場では一体となって意見を交わす環境が必要だ。
(2)新しいマニュアルが従来のマニュアルとかけ離れている
新しいマニュアルがあるにもかかわらず、慣れた方法で作業する。慣れた方法のほうが効率がいい。不慣れな方法は時間がかかる。これは人間の本質的な性格でもある。新しい方法を覚えるなんてめんどくさい。この場合、なぜ新しい方法が必要かを周知し、納得させなくてはいけない。人は納得できなければ考え方を変えない。
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