なぜJR北海道でトラブルが続くのか:杉山淳一の時事日想(4/7 ページ)
JR北海道で車両火災などトラブルが頻発している。車両の新旧や該当箇所もまちまち。共通の原因を見つけ出すとするなら、それは車両ではなく運用だ。JR北海道は昨年、整備体制の不備を会計監査院に指摘され、国土交通省から業務改善命令も受けていた。
なぜマニュアルが守れないか
この一連の事象について、JR北海道や国が整備不良を重視している。私はその根本に「マニュアルの不履行」があると考察する。車両の整備はマニュアルに沿って実施される。そこには詳細な整備手順が記されており、些細なことでも過去の経験を踏まえた結果が反映されているはずだからだ。小さな事故でもマニュアルが改善され、それを遵守できれば、同じ事故は起きないはずである。
鉄道車両の点検というと、テレビなどでは老練な作業員がトンカチで部品を叩く姿が紹介される。だから点検は職人芸だと思われがちだ。しかし、それは点検作業のほんの一部で、映像として面白いから紹介されているに過ぎない。実際は画面に映しても退屈で地味な……しかし重要な作業ばかりである。整備の資格を持っていれば、経験や年齢にかかわらず、誰もが同じ品質の整備を実施できる。そのためにマニュアルがある。職人技の伝承は、職人の背中を見て覚えるわけではなく、マニュアルに蓄積される。
マニュアルに従っていれば、整備品質は保てた。しかしマニュアルは守れない。これはJR北海道に限らない。例えば、7月18日にJR九州で在来線の運行管理システムがストップし、多数の列車が運休した。これはシステムのストレージ(コンピュータ内でデータなどを記憶する装置)をHDD(ハードディスクドライブ)からSSD(ソリッドステートドライブ )に交換した際の性能の差異によるものだった。本誌はIT系の読者も多いから、これは身近な問題だろう。
サービスの可用性を重視するシステムで部品を交換する場合は、事前に性能の検証を充分に実施し、必要ならサブ環境でテストする。部品変更の決定は顧客と保守会社の合意が必要で、もちろん交換手順も定められている。JR九州の場合、部品変更の合意がなされていたか、サブ環境の検証は実施されたか、交換手順のマニュアルを保守員が遵守したかの3点が問われる。交換手順のマニュアルがあるにもかかわらず、現場の保守員が勝手に経験則で作業する。これがもっとも残念なトラブル事例であろう。
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