なぜJR北海道でトラブルが続くのか:杉山淳一の時事日想(3/7 ページ)
JR北海道で車両火災などトラブルが頻発している。車両の新旧や該当箇所もまちまち。共通の原因を見つけ出すとするなら、それは車両ではなく運用だ。JR北海道は昨年、整備体制の不備を会計監査院に指摘され、国土交通省から業務改善命令も受けていた。
2年前に事業改善命令が出ていた
JR北海道の整備不良問題は、2年前から指摘されていた。
衝撃的な列車火災事故が2年前に起きている。2011年5月、特急「スーパーおおぞら14号」がトンネル内で脱線、炎上し、車両6両が全焼した。この時はJR北海道の危機管理も問われた。乗務員と運行司令所との連絡がもたつき、乗客たちが機転を利かせて非常ドアを開けて脱出した。248人の乗客に死者はなかったものの、39人が病院に搬送されている。現場検証では車両側の部品の脱落が多かった。
この事故を重く見た国土交通省はJR北海道に対し事業改善命令と改善指示を出している。事業改善命令は火災トラブルに対するマニュアルの見直しや従業員の訓練について、改善指示は車両側の原因対策と現場部門の技術管理体制についてだ。JR北海道はこれらに対して相応の処置を実施したとして、2011年9月に報告書を提出している。重大事故があったとはいえ、ここでしっかり体制が確立していれば、以後の事故は防げたかもしれない。
ところが、翌年の10月に、とんでもない報道があった。会計検査院の調査によると、JR北海道が2011年度に実施した車両検査のうち、約3割で社内の安全規則が守られていなかった。約900両で検査の一部が省かれ、約1600両の整備記録の一部に空欄があった。関連会社に委託した整備も、約50件の整備契約について記録が報告されていなかった。
また、運輸安全委員会の調査報告によると、2011年5月の石勝線の火災事故では、車両の設計図と異なるサイズの部品が使われた場所があり、ナットが手でゆるむ状態だったという。マニュアル通りの検査、マニュアル通りの部品取り付けが行われていなかった。
北海道では2012年2月に、もうひとつ大きな事故が起きている。石勝線の貨物列車脱線事故だ。貨物列車のブレーキが効かなくなり、本線を暴走する恐れがあったため、安全対策用の脱線ポイントに列車を進入させた。当然ながら列車は脱線、貨車は大破。この場合、脱線は安全対策機能が正しく機能した結果だからよしとして、問題はブレーキが効かなくなった事象だ。当時は雪が付着したためとされた。しかし、のちに判明した事象から振り返れば、これも貨車のブレーキ整備が疑われる。
ちなみに、この事故で霞んでしまったが、同じ2012年2月には特急「スーパーおおぞら13号」の配電盤から出火している。配電盤出火の事例も根が深い。
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