一大イベントの陰で何が見えたのか――南相馬市と浪江町の今:相場英雄の時事日想(4/4 ページ)
筆者の相場氏は7月下旬、福島県南相馬市を訪れた。政府首脳は「福島の再生なくして日本の再生なし」と声高に訴えているが、旧警戒区域の復興は全く手つかずの状態だった……。
南相馬市鹿島区に戻り、小高区や浪江町から避難している住民たちに聞いてみた。「復興なんてまだまだ」……。一様にこんな声が返ってきた。彼らは家の片付けや、生活再建のたびにあの荒涼とした景色を目にしながら故郷に戻る。その心情を思うと、なにも言えなくなった。
旧避難区域では、お盆などの連休期間を除き、いまだに夜間の宿泊が許可されていない。「たまに家に残って酒を飲み、警察に注意される人がいる」との声も聞いた。公共交通機関のインフラが復旧しないため、この地域での住民たちの足は自動車だ。家で酒を飲めば、避難先に戻れなくなる。それを承知で、自宅で酒を飲む……。
長年住み慣れた自宅を離れざるを得ないという心情。当事者でない私には、彼らの声を黙って聞くしかない。
話を聞きながら、私は野馬追会場の1コマを思い出した。混雑するスタンドの一角に、いかついSPの一団が要人を警護していた。
祭が終了し、一般客が徒歩で最寄りの駐車場を目指す中、黒塗りのハイヤーが人並みをかき分けて走り去った。おそらく、SPが警護していたVIPが乗っていたのだろう。
この要人はなぜ急いでいたのか。小高区や浪江町の現状を、自分の目でいち早く確かめたかったのだろう。私は無理矢理そう思うことにして、南相馬市を後にした。
最後に、本欄で何度か著作を紹介した河北新報の寺島英弥編集委員が同紙に記した一文を紹介する(関連記事)。
「復興が進んでいるんでしょう」と東京で聞かれることがある。それは被災地と別の日常にいる人の思い込みだ。時間はただ問題の山積と複雑化、忘却を進める。当事者の声を聴くことから始まるのは記者も政治家も変わらない。何度でも通い、そこから「再生の経済」を考えてほしい。「寄り添う」の真の意味だ。
福島や他の沿岸被災地の思いを体現する文章だ。
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