日本人の旅スタイルは「安・近・短から弾・参・縁」に――その意味とは:博報堂・吉川昌孝のデータで読み解く日本人(3/3 ページ)
生活定点データによると、夏休みに旅行をしている人は減少しています。長期休暇を取得する人も増えていない中で、帰省する人が増加しています。日本人の旅行スタイルにどんな変化が起きているのでしょうか。
「縁」で訪ねると、現地暮らしが安く疑似体験
海外旅行に行く若者が減ったとよく言われます。その一方、海外に住む日本人(在留邦人総数=永住者+長期滞在者)は着実に伸びており、今や2011年現在118.3万人(対前年比3.43%増)。特に近年はアジア方面への居住者の伸びが目立っています。移住したい国第1位はマレーシアだったりしますしね。
さてこのように海外に住む日本人が増えると、海外に住む友人・知人、もしくは親族を持つ国内にいる日本人も自動的に増えていきます。そして、その人たちを頼って海外に出掛ける人も増えるでしょう。すると旅はどうなるか。まず宿泊代が浮きます。食事代だってその家でお世話になれば減らせます。なにより、そこに住んでいる現地の人と同じリズムで生活できるようになります。いうなればホームステイ気分を割安に味わえるようになる。この感覚、まさに単なる見物人、ツーリストでは難しい、現地の生活に入り込むという、参加性要素も満たすわけです。
私たちのWebサイトでも紹介しましたように、里帰りが海外になるケースもこれから増えていくでしょう。祖父母世代〜団塊世代が海外に移住する。その祖父母を頼って孫世代が夏休みの間だけ海外生活を体験する。例えば現地の語学学校に短期留学してみたり、サマーキャンプに参加してみたりと、親世代からすれば子供たちの経験値を増やすためにも格好な機会となるわけです。もちろん、自分たちも後からそこに合流すればいいわけですし。
バブル期は、海外リゾートマンションで欧米のような長期バカンスを優雅に過ごす、というのが理想の休み像でした。その後、バブルが崩壊してからは、ひたすら安くて、近場で、短い間でもなんとかのんびりリラックスすることが、休みに求められました(いわゆる安・近・短)。それが今回見てきましたように確実に変化しています。短いけれど濃密な旅程で(弾丸化)、単なる観光や見物でなくいろんなことに積極的に参加し深い体験をする(参加性の確保)。そしてその時に自分にゆかりのある人を起点にすること(縁の活用)で、コストカットとさらに現地での生活体験を実現する、そんな休みの過ごし方が生まれているのです。
安・近・短に変わる弾・参・縁というやりくり上手な旅が増えてくると、イベント化はどんどん進んでいくでしょう。観光でもなく、リラックスするでもない、少し刹那的だけれどとても濃密な時間を過ごそうとする、日本独特の休暇スタイルが誕生しつつあるのかもしれませんね。
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