しまむらのマニュアルが進化し続ける意味:INSIGHT NOW(1/2 ページ)
株式会社しまむら。「ファッションセンターしまむら」の運営会社として今や有名企業であるが、意外とその実像はとらえにくい。「マニュアル」をキーワードに、その「すごさの秘密」を探ってみた。
著者プロフィール:日沖博道(ひおき・ひろみち)
パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。
しまむらのオペレーションは徹底的にマニュアル化されている。「商品仕入」から「店舗運営」「システム開発」「社員研修」など、何から何までマニュアル化しているといってよい。その総ページ数は1000ページを超えるという。
以前、そのページ数を耳にした際には正直、「一体誰がそんな分厚いマニュアルを読むのか」「新人が1週間ほど掛けて読み終わるころには最初の部分は忘れてしまうぞ」という感想が浮かんだ。しかし先日、「BSニュース 日経プラス10」での放送録画を見て、思い直した。商品を出した後、ダンボールを潰すやり方までマニュアルに書いてあるのだ。「こういう手順でやると、手に怪我をする恐れがありません」といった狙いとともに。思わず「なるほど」とうなってしまった。
マクドナルドの「あわせてポテトはいかがですか」のお勧めのように、機械的な「マニュアル」教条主義に対する一般の印象はあまり良くはない。実際、そうした会社で働いている人が「何も考えなくなってしまう」という弊害が多く指摘されている。それに対し、しまむらでのマニュアルの位置付けは全く異なるようだ。
しまむらのWebサイトでマニュアルについて訴えているページがある(参照リンク)。
◆マニュアル:しまむらはローコストオペレーションを徹底し効率的な運営をしていますが、それを支えているのがマニュアルです。日本では個人的な技術を重視する風潮に加え、マニュアルに対する誤解と軽視が見られます。私たちしまむらでは最も優れたベテラン社員のやり方をマニュアルと考え、新入社員でも一定レベルの業務ができるようにするため、全ての部署でこれを重視し、標準化と合理性を追求しています。
◆改善提案:マニュアルをいつの時代も生きたものとするために欠かせない仕組みが改善提案制度です。業務の最適化を実現するには、マニュアルをブラッシュアップし続けることが最も大切です。しまむらでは、全社員から毎年5万件以上の改善提案が寄せられ、これを一つ一つ検討・実験し、その結果は再び新しいマニュアルとして毎月更新され続けています。
実際、同社のマニュアルは3年も経つとガラリと変わるという。こうしたことから考えると、しまむらにとってマニュアルとは、現場をよりよくするための「永遠の叩き台」であり、属人化しがちなノウハウを形式知に変換するための「組織学習のための記憶装置」であることが分かる。
しまむらにおいてマニュアルが「不磨の大典」扱いされずに進化し続けられる要因は複数ありそうだ。
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