万年筆ってイイね! 老舗メーカーを動かした1本の衝撃動画:新連載・それ、ちょっと気になる!(2/3 ページ)
1本の万年筆が上下左右に動きまわり、1枚の絵を描き上げた。イラストレーターの名前はSHOHEI、万年筆の名前は「ジャスタス95」という。
320万再生、パイロット社に衝撃をもたらした「万年筆動画」
ヒントは同じYouTubeにあった。2012年11月、Yahoo! JAPANがとある動画をピックアップした。パイロット製万年筆「Namiki Falcon」(日本名「エラボー」)で線や英数字をたんたんと書きつづっていくものだ。その動画には効果音もBGMもない。聞こえるのはペン先が紙に触れる音だけ。およそ5分弱の動画は現在、320万件以上の再生回数を数えている。
「あの動画は衝撃でしたね。たった1つの動画がたくさんの人の心を動かし、万年筆に興味を持たせ、店頭へと走らせた。万年筆のプロモーションを担当する人間としては希望の持てる、とにかくすごい現象だったんです。特別なことをしているわけでなく、ただ書いているだけで、こんなにも万年筆に共感してくれる人がいるんだ、と」(古謝さん)
エラボーは一時的に品切れになるほど売れた。だが、メーカーとしては困った事態でもあった。実際のところ、Namiki Falcon動画は半ば「プロの仕業」。万年筆の使い方としては非常に高い確率でペン先を壊しかねないもので、「そこまでやるのか、そりゃまずいでしょ」とやきもきした気持ちにもなったそうだ。
今回、ジャスタス95のプロモーション動画を作るに際して、くだんのNamiki Falcon動画はすごく意識したという。あの動画で重要だったものは何か? それは「万年筆で書くこと」というエッセンスだった。SHOHEIさんのイラスト技術は真似できなくても、とにかく万年筆に触ってみよう、店頭で試し書きしてみようという気持ちにさせればプロモーションとしては成功だ。
ジャスタス95のギミックの正体
ところでジャスタス95のペン先に付いている謎のギミック。これは何なのか? これもちょっと気になる! その秘密を武井さんに聞いた。
「金ペンというものは筆圧が加わるとたわむという性質があります。それによって独特の書き心地が得られ、筆跡などが変化します。ジャスタスは、このペン先のしなりを自分好みに調整できる唯一の万年筆なのです」
ジャスタス95の首軸部分を回すとペン先の上をプレートが前後に動く。コントローラーを「S(ソフト)」側に回してプレートを短くすれば、“つっかえ棒”がなくなってペン先がしなりやすくなり、トメ、ハネ、ハライといった文字のニュアンスを出しやすくなる。反対に「H(ハード)」側に回してプレートを長く繰り出せばペン先が硬くなりカッチリとした感触になる。
実はこのジャスタス95、1979年(昭和54年)に発売した「ジャスタス」を復活したもの。ジャスタス(JUSTUS)という商品名は、調整を意味する英語の「ADJUST」に由来し、私たち(US)にちょうどいい(JUST)という意味を持たせた造語なのだとか。ちなみに「95」は、パイロットの万年筆づくり95年の歴史から取っている。
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