ローカル線の救世主になるのか――道路と線路を走るDMVの課題と未来:杉山淳一の時事日想(1/5 ページ)
山形県のローカル線を活性化するため、DMV(デュアル・モード・ビークル)を導入する動きが始まった。しかし、開発元のJR北海道もいまだ実用化せず、今まで取り組んできた路線や自治体にも、その後の動きはない。そこで国土交通省が主導して取りまとめることになった。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。
JR北海道は2004年に画期的な車両を開発した。小型バスを改造し、道路走行用のタイヤと線路走行用の車輪を備えた。道路と線路、両方とも走行可能なことから「デュアル・モード・ビークル(DMV)」と呼ばれている。鉄道のメリットとバスのメリットを兼ね備え、鉄道車両より安価に製造できるから、「ローカル鉄道の救世主」との期待が寄せられている。
しかし、実用化は進んでいない。JR北海道は2007年と2008年に「試験営業」をした後、営業運転を実施していない。。鉄道イベントのひとつとして、苗穂工場の一般公開日にデモ走行する程度の扱いになっている。それにもかかわらず、全国のローカル鉄道から導入構想が浮上し、実際に車両を借り受けて試験運転までしたところもある。が、やっぱりその後は動きがない。
導入構想を掲げた鉄道の中には、兵庫県の三木鉄道や宮崎県の高千穂鉄道のように、DMVへの願いも虚しく廃止された路線もある。その他、DMVに手を挙げた路線を眺めると、すべてとは言わないが、再生への万策が尽きて、なにか新しい方針を打ち出す必要に迫られ、苦し紛れにDMVを持ちだしたような事例もある。そもそも、開発元が実用化せず、わずかな実績しかない技術である。経営不振の鉄道会社が導入するにはリスクが大きすぎる。
そんな中、山形県の山形鉄道フラワー長井線と、JR東日本の左沢線(あてらざわせん)を結ぶDMVの構想が立ち上がった(参照リンク)。2つの路線の終着駅を結ぶ道路を直通し、山形駅を含む半環状線を形成しようというプランだ。魅力的ではあるが、そのルートなら乗り継ぎバスを走らせるだけでもよさそうだ。しかも現在は両駅を結ぶバス路線は設定されておらず、潜在的な需要も不透明。鉄道と道路が直通すれば需要が生まれるだろうか。
DMVに関しては、開発元が実用化していない技術について、各地の自治体が導入のための調査費を計上するという、なんとも妙な話ばかりだ。
関連記事
- 鉄道ファンは悩ましい存在……鉄道会社がそう感じるワケ
SL、ブルートレイン、鉄道オタク現象など、いくつかの成長期を経て鉄道趣味は安定期に入った。しかしコミックやアニメと違い、鉄道ファンは鉄道会社にとって悩ましい存在だ。その理由は……。 - 「青春18きっぷ」が存続している理由
鉄道ファンでなくても「青春18きっぷ」を利用したことがある人は多いはず。今年で30周年を迎えるこのきっぷ、なぜここまで存続したのだろうか。その理由に迫った。 - なぜ新幹線は飛行機に“勝てた”のか
鉄道の未来は厳しい。人口減で需要が減少するなか、格安航空会社が台頭してきた。かつて経験したことがない競争に対し、鉄道会社はどのような手を打つべきなのか。鉄道事情に詳しい、共同通信の大塚記者と時事日想で連載をしている杉山氏が語り合った。 - JR東日本は三陸から“名誉ある撤退”を
被災地では、いまだがれきが山積みのままだ。現在、がれきをトラックで運び出しているが、何台のトラックが必要になってくるのだろうか。効率を考えれば、鉄道の出番となるのだが……。 - あなたの街からバスが消える日
バスは鉄道と並んで、地域の重要な移動手段だ。特にバスは鉄道より低コストで柔軟に運用できるため、公共交通の最終防衛線ともいえる。しかし、そのバス事業も安泰ではないようだ。 - なぜ「必要悪」の踏切が存在するのか――ここにも本音と建前が
秩父鉄道の踏切で自転車に乗った小学生が電車と接触して亡くなった。4年前にもこの踏切で小学生が亡くなっている。なぜ事故は防げなかったのか。踏切に関する政策を転換し、「安全な踏切」を開発する必要がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.