ローカル線の救世主になるのか――道路と線路を走るDMVの課題と未来:杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)
山形県のローカル線を活性化するため、DMV(デュアル・モード・ビークル)を導入する動きが始まった。しかし、開発元のJR北海道もいまだ実用化せず、今まで取り組んできた路線や自治体にも、その後の動きはない。そこで国土交通省が主導して取りまとめることになった。
DMVの開発と構造
2004年にJR北海道が開発したDMVは、日産製のマイクロバスをベースとし、鉄道線路用の金属の車輪を追加している。道路ではゴムタイヤで、線路では鉄の車輪を使う。道路走行時は、鉄の車輪が格納されており、外観はマイクロバスとほぼ同じだ。線路を走行する場合は、床下に格納された鉄の車輪が降りてレールの上に乗る。
こうした鉄道と道路の兼用車両は従来にもあった。「軌陸車」と呼ばれる鉄道の保守用車両だ。トラックが資材置き場などから保線現場近くの踏切まで行き、そこからレールの上を移動する。自走車両だから、電化区間を停電させて作業できる。ただし、動力をゴムタイヤから鉄輪に切り替えるため機構は複雑だ。車両は高価で、切り替えに時間がかかる。
DMVのユニークなところは、動力として後輪のゴムタイヤをそのまま使う方式だ。後輪ゴムタイヤのみレールの上にそのまま乗り、かじ取り用の前輪ゴムタイヤは車体ごと浮かせる。これで機構が簡素化され、モードチェンジの所要時間はわずか30秒。しかも営業運転に必要な速度を実現できる。DMVの構想は70年前から英国やドイツで開発が始まり、日本の国鉄時代も実験が行われた。しかも機構が複雑すぎるなどで、いずれも実用化に至らなかった。それをついにJR北海道が実現した。
初代DMVは定員29名で設計したものの、足回りが荷重に耐えられないため車検を通せず、定員を16名に減じた。そのため費用対効果を期待できなかった。JR北海道はさらに開発を進めて、翌年の2005年には背中合わせ2両連結の「U−DMV」を試作。2008年にはトヨタ自動車と日野自動車が参加、2009年にはNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)との共同研究も始まって、ひとまわり大きな車両(DMV920/DMV921)を試作した。改良が進み、DMV920が定員28名、DMV921が定員24名となった。鉄道車両の定員には及ばないものの、バスとしての体裁は整った。最新型は2010年に作られたDMV922、DMV923で、定員は29名となっている。
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