ローカル線の救世主になるのか――道路と線路を走るDMVの課題と未来:杉山淳一の時事日想(3/5 ページ)
山形県のローカル線を活性化するため、DMV(デュアル・モード・ビークル)を導入する動きが始まった。しかし、開発元のJR北海道もいまだ実用化せず、今まで取り組んできた路線や自治体にも、その後の動きはない。そこで国土交通省が主導して取りまとめることになった。
DMVのメリットとデメリット
鉄道と道路の両方を走れるDMVは、列車とバスの両方の利点を持つ。列車は定時性と悪天候時の走破性に優れる。バスは路線設定の柔軟性、路線建設コストの低さがある。JR北海道がDMVに力を注いだ理由は、積雪による道路交通の遮断や、除雪車両で得た油圧システムに活路を見出したからだ。車両製造費の利点もある。鉄道と道路の変換機構を加えたとしても、バスの改造のため鉄道車両より価格は安い。現状では年間4台の生産(改造)が可能という。
ただし、DMVには技術面、運用面の問題もある。
鉄道は本来、大量輸送手段である。しかし現在のDMV車両は鉄道車両に比べて1両当たりの定員が少ない。大量輸送のメリットを生かすには、複数の車両を連結し、途中駅で1両ずつ分離して道路に出ていくというスタイルが望ましい。現在は3両編成の運行が可能となっているとはいえ、3両で鉄道車両1両分の定員となる。エネルギー効率はあまり良くないし「直通にこだわらず、駅でバスに乗り換えればいいじゃないか」という声も出そうである。
また、既存の鉄道信号システムが使えない。DMVの車体が軽すぎるため、レール側に設置した装置(軌道回路)では車両の通過を検知できない。JR北海道が軌道回路方式から脱却し、GPSによる信号システムを開発しようとする背景もここにある。このシステムは国が研究開発費を支援している。とはいえ、新システムを導入するにあたっては鉄道線路側の改良が必要となる。
運用面では運転免許の問題がある。鉄道と道路では運転免許が異なる。道路では中型二種免許が必要で、線路では鉄道車両用の動力車運転免許が必要だ。もちろん両方を取得した運転士がいれば問題ない。人材の育成を急ぐか、あるいはそれぞれの免許を持つ2名の運転士が乗務する。人件費を引き上げる要素である。
法規の扱いについても、鉄道部分は鉄道事業法や軌道法、道路部分は道路運送法となる。運賃や路線の新設、廃止について、それぞれの法律のもとで手続きが必要となり手間がかかった。しかしこれは2007年に制定された「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」によって解決された。DMVや水陸両用自動車の路線について「新地域旅客運送事業」として認定されると、1度の手続きで済むようになっている。
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