ローカル線の救世主になるのか――道路と線路を走るDMVの課題と未来:杉山淳一の時事日想(4/5 ページ)
山形県のローカル線を活性化するため、DMV(デュアル・モード・ビークル)を導入する動きが始まった。しかし、開発元のJR北海道もいまだ実用化せず、今まで取り組んできた路線や自治体にも、その後の動きはない。そこで国土交通省が主導して取りまとめることになった。
国土交通省「DMVの導入・普及に向けた検討会」で現状が明らかに
JR北海道が開発したDMVについて、もっとも早く手を上げた鉄道会社は兵庫県の三木鉄道だった。2006年1月だ。第3セクターの三木鉄道の赤字は三木市の財政を圧迫し、存廃が次期市長選のテーマになるほどだった。そんなとき、存続派の現職市長が起死回生のアイデアとしてDMV構想を立ち上げた。まだJR北海道でさえ営業試験をしていない時期だ。しかし、この市長は翌月の市長選で三木鉄道廃止派の候補に落選する。新市長はDMV案を「バスよりコストがかさむ」として却下。公約通りに三木鉄道を廃止した。
同年4月、宮崎県の神話高千穂トロッコ鉄道はDMVによる鉄道路線復旧を目指した。この路線は第三セクターの高千穂鉄道が運行していたが、高千穂鉄道は2005年9月の台風で被災し全線運休。復旧のめどが立たず、そのまま廃止という方向となった。神話高千穂トロッコ鉄道はこの路線を継承する目的でつくられた。しかしDMVは導入されず、路線復活はかなわなかった。現在は神話高千穂トロッコ鉄道の後継組織、高千穂あまてらす鉄道が廃線の一部で保存鉄道を運営しつつ、路線復活を目指している。
JR北海道でさえ実用化しない段階でのDMV導入案は苦し紛れに見える。しかし2006年6月、自民党の国土交通部会はDMVについて国が支援すべきと提言。これを受けて国土交通省は南阿蘇鉄道の実証実験を支援し、同時に幅広く地方公共交通を支援する新法の法案に着手。これが後に「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」となった。その後、各地でDMV導入の機運が高まっていく。JR北海道もDMV車両を貸し出すなど協力している。
DMVについては、ローカル線の導入計画ばかりが報じられ続報が少ない。しかし、今年2月に国土交通省が「DMVの導入・普及に向けた検討会」を設置し、今までのDMVに関する動きが公開された。DMVはJR北海道や国の研究開発支援によって、現在も実用化へ向けて開発や試験が続けられていた。
関連記事
- 鉄道ファンは悩ましい存在……鉄道会社がそう感じるワケ
SL、ブルートレイン、鉄道オタク現象など、いくつかの成長期を経て鉄道趣味は安定期に入った。しかしコミックやアニメと違い、鉄道ファンは鉄道会社にとって悩ましい存在だ。その理由は……。 - 「青春18きっぷ」が存続している理由
鉄道ファンでなくても「青春18きっぷ」を利用したことがある人は多いはず。今年で30周年を迎えるこのきっぷ、なぜここまで存続したのだろうか。その理由に迫った。 - なぜ新幹線は飛行機に“勝てた”のか
鉄道の未来は厳しい。人口減で需要が減少するなか、格安航空会社が台頭してきた。かつて経験したことがない競争に対し、鉄道会社はどのような手を打つべきなのか。鉄道事情に詳しい、共同通信の大塚記者と時事日想で連載をしている杉山氏が語り合った。 - JR東日本は三陸から“名誉ある撤退”を
被災地では、いまだがれきが山積みのままだ。現在、がれきをトラックで運び出しているが、何台のトラックが必要になってくるのだろうか。効率を考えれば、鉄道の出番となるのだが……。 - あなたの街からバスが消える日
バスは鉄道と並んで、地域の重要な移動手段だ。特にバスは鉄道より低コストで柔軟に運用できるため、公共交通の最終防衛線ともいえる。しかし、そのバス事業も安泰ではないようだ。 - なぜ「必要悪」の踏切が存在するのか――ここにも本音と建前が
秩父鉄道の踏切で自転車に乗った小学生が電車と接触して亡くなった。4年前にもこの踏切で小学生が亡くなっている。なぜ事故は防げなかったのか。踏切に関する政策を転換し、「安全な踏切」を開発する必要がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.