ローカル線を救うのは誰か? アニメファンを無視してはいけない:杉山淳一の時事日想(2/5 ページ)
『ポケットモンスター』や『ワンピース』など、人気キャラクターをあしらったラッピングトレインが運行されている。しかし最近、アニメキャラクターと鉄道のコラボに新しい要素「聖地訪問」が加わった。観光客を呼ぶ新たな手法として注目されている。
のと鉄道と『花咲くいろは』
のと鉄道は、能登半島の中央部にある七尾駅と、奥能登の入り口で七尾北湾に面する穴水駅を結ぶ33.1キロメートルの路線を運行する。金沢駅から七尾駅まではJR西日本の七尾線が接続しており、大阪や名古屋からの特急列車がのと鉄道の和倉温泉駅まで乗り入れる。JR西日本の七尾線と、のと鉄道の七尾線、合わせて能登方面の生活手段、観光ルートとして機能する。
のと鉄道は旧国鉄の能登線の廃止を受けて設立された第3セクターで、かつては穴水から輪島まで、穴水から能登半島先端の蛸島までの路線を運営していた。しかし利用者数が減り赤字がかさみ、どちらも廃止されている。経営が苦しい中、鉄道事業と売店事業の好成績は明るい要素となった。
『花咲くいろは』は、富山県の映像製作会社「ピーエーワークス」が制作したアニメ。テレビ放送は2011年4月から。また、アニメ放送に先駆けて2010年11月から雑誌連載が始まっていた。ストーリーは、東京から引っ越してきた女子高生が、温泉旅館でアルバイトしつつ学生生活を送り、成長していくというものだ。
舞台は架空の街だが、金沢市の湯涌温泉やのと鉄道沿線の街がモデルとなっており、のと鉄道の車両や、西岸駅にそっくりな「湯乃鷺駅」が登場する。このアニメをのと鉄道の社員が見て、西岸駅に「湯乃鷺駅」に看板を置きたいと提案した。「きっとアニメを見て舞台となった街を訪れる人がいるだろう。記念撮影できるものを用意してあげたい」という思いがあったという。実際には看板ではなく、湯乃鷺駅の駅名標になった。これがきっかけで、出演声優による車内放送やヘッドマーク付き列車、ラッピングトレインへとつながった。
アニメの放送は2011年中に終わったが、後にDVDなどが発売され人気は継続。2013年3月からは劇場版が公開された。のと鉄道を訪れるファンも多く、ラッピングトレインの運転開始も手伝って、のと鉄道の2012年度の好成績に結びついた。のと鉄道は「今後しばらくは人気の余韻が続く」と期待している。
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