シリア空爆で「米国は世界の警察官ではない」と言いだしたオバマ大統領の真意とは?:藤田正美の時事日想(1/2 ページ)
シリアが化学兵器の備蓄を申告した。今後、少なくとも半年以上の時間をかけて、検証と破棄に向けたプロセスが動くだろう。ホッとしたのは、アサド大統領とオバマ大統領の2人だ。
著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
シリア政府は、保有する化学兵器の備蓄を約束どおり申告した。その内容が事実かどうかの検証が現在行われている。内戦が激しくなる中での検証だけに、時間がかかるのは間違いない。それでも化学兵器の国際管理と破棄に向けての第一歩が始まった。
シリア国内で化学兵器が使われた疑いが濃厚になったのが8月下旬のこと。使用したのが政府側なのか、反政府側なのかは分からないままだが、かねてより「化学兵器の使用は一線を越える」と警告していた米国は、懲罰のためのシリア空爆に出るつもりだった。だが、この攻撃には英仏独らが同調せず、米国の単独介入の色が濃くなるとオバマ大統領も振り上げた拳の落とし所が見いだせなくなっていた。そこにロシアから「化学兵器の国連での共同管理」という提案が出され、渡りに船とばかりに米国も乗ったというわけだ。
このまますんなりと問題が解決するとも考えにくい。もしシリア政府が虚偽の申告をしていたことが判明したとき、どう対応するのか。その点で、関係国の間で対立がある。武力行使も前提にした安保理決議にすべきだとする米英仏に対して、あくまでも武力行使には反対する露中という構図がある。
いざとなれば武力攻撃という選択肢を残しておきたい米国だが、空爆をしてアサド政権が弱体化した場合のシナリオに自信があるわけでもない。もともと反アサド運動が始まったときにできた自由シリア軍(FSA)のような反体制派なら、シナリオを描きやすかっただろうし、武器供給もしやすかったかもしれない。しかし現在の反体制派の中には、いわゆるイスラム過激派やアルカイダ系の組織もいて、まとまりがないとされている。もしこうした中でアサド政権が崩壊すれば、イラクやアフガニスタン、エジプトのようにより大きな混乱だけが残される可能性が高い。
現在の段階で、シリア危機で点を稼いだのは、ロシアのプーチン大統領、それに政権を維持できるかもしれないシリアのアサド大統領だろう。一方で評判を落としたのは、リーダーシップを発揮し損なった米国のオバマ大統領、議会から武力行使にノーを突きつけられた英国のキャメロン首相だ。フランスのオランド大統領は、武力行使について議会にはかる前に米露が化学兵器管理について合意したため、火中の栗を拾わなくてすんだ。
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